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思想の尻尾~機と玩具と人工知能~

人から譲り受けた犬の貯金箱
一度も使わず埃をかぶっていた。
部屋を整理しながら硬貨を入れてみると
首と尻尾を振り目玉をクルクルさせて動き出した。
在る静かなものが外からの働きかけでにわかに活動を始める。
昔の玩具はそんなものが多かった。
デパートのおもちゃ売り場で
試供品のスイッチを押して歩くのが楽しみだった。
フライングタイガーの店舗では今も遊べる。
頭を押すと喚きだすカボチャや発光する幽霊。
店を一周、手を変え品を変え楽しませてくれる機械仕掛けの玩具たち。

人間の心にも機械の機の字がよく使われる
心の機微が分かる人、機転が利く人
機心の知れた仲、犯人の動機、機敏な動きなどなど…
心の動静を表す言葉の数々。
人間の心を「機」という字で表すのは仏教の習慣のようだ。
すべての機械は外から働きかけられて動き出す。
人間の心も外からの作用によってどのようにでも動き出すから
「機」と言われる。
機織りの起源は紀元前6000年のメソポタミア文明まで遡れ
水車は紀元前200年頃のギリシャで発案されたらしい。
最初の小さなひと押しが大きなものを動かす。

私たちの心もやってくる縁に触れ折に触れ
「欲しい」「思いきれない」「腹立たしい」「邪魔だ」
「妬ましい」「憎い」「疑わしい」「好きだ」「嫌いだ」
様々な思いが動き騒ぎ出す。
「わかっちゃいるけどやめられない」という歌謡曲がある。
頭ではいけないと分かっていても
湧き上がってくる心は制御がきかない。
分かる象使いよりやめられない象の力が
ずっと強いことを説いたのが仏教なのだろう。
近代西洋哲学は象使いが野生の象を飼いならして
いこうとするものかも知れない。
献金を受け取るのは悪いと分かっていても
多額のお金を目の前にしたら欲しい心が起きる。
それを理性の規則に照らし正していく。
そこに人間の考える自由が確保される。
象と象使いがガチで争ったらどちらに軍配があがるのか?

最新の機械、人工知能はどうだろう?
膨大な経験則を取り込んだAIは外からの作用によって
どのようにでも適切な反応を示してくれるように見える。
自分自身を機械の様なものとみなして
どんな環境に身を置いたらよいアウトプットが出来るか
自宅かホテルかカフェか都会を離れ二拠点生活を始める人もいる。
では人間の心と人工知能は同じ「機」として
イコールで結んでもよいのか?
一番近いはずの自分のことが自分では一番よく分からない。
古くて新しい心の奥の院への探索は興味が尽きない。

2024年10月31日 捕まえた尻尾

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