思想の尻尾~フレデリックの秋
大好きな秋がやってきた。
朝のランニングで足元にまだ青い栗を見つけた。
玄関先にコオロギがやってきた。
野菜コーナーにはサツマイモや柿が並べられる。
涼しい風が優しく顔を撫でてくれる。
マレーシアから日本に留学し就職した友達がいる。
インドネシアとマラッカ海峡を挟んで隣り合う半島。
1年を通して熱帯の気候で時折スコールが来るそうだ。
雪は日本で初めて見たと言っていた。
もちろん秋という概念はない。
春夏秋冬、夏と冬に挟まれて秋は肩身が狭そう。
春には桜、夏は海と山、冬は雪と分かりやすい顔がある。
秋は夏と冬の境界、汀、短い移行期間
その淡い存在感がよいのかも知れない。
近年の猛暑に苛まれた身体を包み込んでくれる柔らかい陽射しに
ほっと息をつく。
旻という字はあきぞらと読むが
澄んだ空気の天の下で本ページを繰りたくなる。
一方、どことなく淋しい雰囲気が漂う季節だ。
積もる落ち葉を踏みしめると心地よくも哀しくもなる。
夕暮れ時 黄金色の空は心に染み込む美しさと儚さがある。
人生に喩えるなら老いの入り口だろうか。
医療で健康寿命がのび人生の秋は長くなったが
秋の次には冬がくる。
何か暗い穴倉の中に入り込んでいくような心地がする。
安心できる備えが欲しい。
スイミーで知られる絵本作家レオレオニの『フレデリック』
冬に備えて仲間のノネズミ達が昼も夜もせっせと貯えを作る中
フレデリックだけは働こうとしない。
座り込んで牧場をジッと見つめているだけ。
何をしているの?
「寒くて暗い冬の為にお日様の光を集めてるんだ」
「色を集めてるのさ、冬は灰色だからね」
半分眠っているようなフレデリック
何してるんだい?
「僕は言葉を集めてるんだ、冬は長いから話の種も尽きてしまうもの」
謎発言だ。
きっと「かわいそうに」と思われたことだろう。
冬が来て食料を貯えた岩蔵に籠ったノネズミ達
木の実を分け合い、お喋りに花が咲き、
ぬくぬく暮らしたがやがて尽きてしまう。
トウモロコシは過去の夢。
仲間たちは尋ねる
「君の集めたものはどうなったんだい?」
フレデリックはみんなに眼を瞑るように呼びかけ
温かい太陽の光、あおい朝顔、黄色い麦、赤い芥子、野イチゴの葉の緑
集めた光と色をみんなに分け与える。
そして蓄えた言葉を詩にして語り聞かせる…
やってくる冬にどんな備えをするか
考え行動するのが秋なのかも知れない。
もしかしたら春や夏も…
結婚し、子供を育て、ジムに通って食べ物に気を遣い
NISAを運用して貯えを作るのも大事な備えだ。
でも幸福は心で感じるもの。
今際の際に励ましてくれるのは言葉だろう。
闇を晴らすどんな言葉を心に蓄えられるか。
秋の夜長に取り組んでみたいと思った。
2024年10月7日 捕まえた尻尾