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畳の上で同人売ろうぜ!「ヨムフリ高円寺」@読夢の湯
東京・杉並区の書店「読夢の湯」で1月25日、同人誌・ZINE即売イベント「ヨムフリ高円寺」が開催された。私は出展者として参加した。
ご来場の皆さま、ご店主や関係者の皆さまにあらためて御礼申し上げます。ありがとうございました。
このイベントのことはXのポストで知った。〝畳敷きの部屋でZINEを販売する〟会か。募集サークル数は9(!)。へえ、おもしろそうじゃん。がぜん興味がわいた。
私はこれまでコミックマーケットや文学フリマなど、大きな会場の即売会に参加してきた。でかいイベントは来場者が多い上に、時間が限られている中で皆さん目当ての買い物があるから、会場で本をゆっくり吟味してもらうことはできない。気になったらとりあえず購入して、後で読む。そういう来場者が多い。
良い悪いではない。私もそうだ。パッと買って家でゆっくり楽しみむ。
大規模イベントに出展するとき、作り手としては、いかにインパクトのあるテーマ、キャッチーな表紙、タイトルにするかが勝負どころになる。
もちろん、行き交う人の目を引きつける本を作るに越したことはない。しかしどこかで「あー、もうちょっとゆっくり見てもらえたらなあ」と思ってしまうのも事実。
サークル数も参加者数も少ない、ゆったりした即売会はないものか。
思案していたところ、「ヨムフリ高円寺」のポストを見つけた。おすすめ欄に出てきたので、恐らく私がフォローしているどなたかが、ヨムフリのポストに「いいね」したんだと思う。ありがとう、フォローしてる人!
誂えたかのような「お風呂セット」
当日。私にしては結構早起きをして湘南新宿ラインに乗った。高円寺に着いたのは午前9時過ぎ。庚申通り商店街を歩く。どの店もまだシャッターが下りている。と思いきや、意外にもラーメン屋が営業していた。客も入っている。朝ラーってヤツか。
高円寺の街じたい、訪れるのは2年ぶりだ。何度か落語を聴きに来たことがあるが、それ以外の印象がない。地元の皆さんには申し訳ない。今日はイベント終了後、少し遊んでいこうと思う。私なりに経済を回して帰ろう。
「読夢の湯」は庚申通りを右に折れた、狭い路地にある。恥ずかしながら、最初、路地に気づかず通り過ぎてしまった。通りの終点まで歩いて、おかしいぞと思った。グーグル先生にナビゲートしてもらいたどり着いた。
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階段を上がり2階のドアを開けると、18畳ほどだったろうか、畳敷きの部屋が現れた。
「ホントに畳敷きなんだ」
聞いて知ってはいたけれど、実際に来てみてビックリした。銭湯ふうの木札の下足箱に靴を入れる。部屋の壁際にぐるっと書棚が設えてあり、絵本や漫画、売れ筋の文芸書まで、ご店主のセレクトした本が並ぶ。
築70年の民家をリノベーションした建物。2階の天井は吹き抜けの状態で、屋根の裏側が露わになっている。梁もむき出し。堂々とした丸太の梁が頭上に横たわる。角材には静岡の材木店の銘が焼き込まれている。建物好きにはたまらない、いつまでも見ていられる屋根裏だ。
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出展者は先述のとおり9人。来場順にくじ引きで机の位置を決める。文机が5台、こたつ(!)が1台。机のないスペースもある。畳にクッションや座布団がぽてんと置いてあって、この辺りに1畳程度でお店を広げてね、というフランクさ。
私はその机のないスペースに当たった。畳の上にはクッションと、木桶、ケロリン入浴剤、手ぬぐい。
お風呂セットじゃん! なんだよここ、私のためのスペースじゃんか!
(私はサウナ・温泉、鉄道、グルメの旅行記を制作している)
せっかくなので、持参した緑の唐草模様の大風呂敷を畳に敷いて、本と、備え付けのお風呂セットを陳列した。自分で言うのもなんだが、誂えたようにぴったりだった。
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遠方より友来る
10時オープン。私は畳の上に体育座りでお客を待った。
しばらくすると女性の二人連れが入店した。その一人に足をツンツンされた。えっと思って見上げる。旧友だった。私が昔勤めていた、千葉の会社で仲良くしていたおねえさん。
一昨年だったか、突然文学フリマの会場に来てくれた。12年ぶりの再会だった。ずっと私のXを見ていて、会いに行ってみようと思ってくれたのだそうだ。
あれから1年3カ月。電車で1時間以上かかるというのに、再び訪ねてきてくれた。高円寺界隈に住むお友達と一緒だった。来てくれるだけでもありがたいのに、お友達を連れてきてくれるとは。ありがたいが過ぎる。
その高円寺のお友達は
「近くに住んでるけど、こういう本屋さんができたなんて知らなかった。これからひとりでも来られるわ」
と言っていた。お店の広報に少しは貢献できただろうか。
旧友は、千葉の地元で有名なケーキ屋の焼き菓子をお土産に持ってきてくれた。私にとっては懐かしい味だ。他愛もない昔話などをして、皆で笑った。二人はほかの出展者のスペースでも話をして買い物をして、とても楽しんでいた。
自分が本を作って、こうしてイベントに出ることで、会いに来てくれる友人がいる(しかも本を買ってくれる)。会社や肩書きを離れても、昔と変わらず接してくれる。昔の会社にいい思い出はほとんどないけれど、彼女のようないい友人を持てたことだけはよかった。心底ありがたい。年齢を経て余計にそう思うようになった。他人様が自分のために、時間や金や労力や気をつかってくれることが、どれだけありがたい=「有り難い」ことか。若い頃はここまで考えが至らなかったなあ。
彼女らはこの後、高円寺のギャラリーに行ったり、共通の推しについて語り合ったり、休日を楽しむそうだ。
「またイベントに遊びに行くからね」
「私もそっちに遊びに行くね、電車に乗って(鉄分補給)」
再会の約束をして見送った。
印象に残ったお客さまがもう一人いらした。拙著「松本好日」をご覧になって
「えっ……」
と驚いた女性。当の長野県松本市からいらしたのだという。パラパラとページをめくって
「この店、めっちゃ近所です」
うれしそうに笑っていらした。
旅行記を、その地域の人に喜んでもらえるということは、書き手として最高の誉れだ。私の旅行記を通じて、「うちのまちを楽しんでくれたんだな」「わがまちのこういうところを、旅行者はおもしろがってくれるんだな」と、地域の人の気づきだったり、誇りだったりにつながったなら、こんな光栄はない。
その松本の女性とは、めちゃくちゃローカルなパン屋さんの話などをした。高円寺で松本の話ができるなんて。うん、やっぱりこの本作ってよかった。
クセになりそうな即売会
畳の上に本を陳列するのはもちろん初めての体験だった。これ、いい。文字どおり、お客と「膝をつき合わせて」ゆっくりいろいろな話ができる。活動の紹介や、本を作るに至った背景も(聞かれれば)解説できる。
もう一つ、気づいたことがある。こういった、読者さんと距離の近い即売会では、クリエイターが自分の創作物をプレゼンできるようにしておくといい、ということだ。
プレゼンとまではいかずとも、自分の活動や本について、簡潔に、かつおもしろく紹介できるように、ある程度言葉を準備しておくと(クリエイターである私自身が)テンパらなくていいかもしれない。作り手がしどろもどろだとお客が困ってしまう。今後少し意識しようと思った。
でもプレゼンがあまりにも上手すぎるのもいやらしい感じがするなあ。
「コミケ限定、小冊子が付いて1000円ぽっきり~!」
なんて、突然ジャ○ネットみたいな口上を述べたら、控えめな読者さんは引いてしまうだろう。ゆっくり立ち読みもできない。
まあ私が「プレゼン上手すぎて読者さんドン引き」になることは絶対にないから、安心してイベントスペースにいらしてください。
出展者同士の交流も和やかだった。ジャンルや表現手法(絵本、小説、短歌、エッセイetc.)は異なるけれど、「クリエイター」であることはみな同じ。創作の酸いも甘いも味わっている人たち。全員同志だ。
夕方にはゲームをしたり、お菓子を食べたり(雲形さん、ありがとうございました)。私も皆さんのスペースを回って、装丁の技術的なことを伺ったり、本屋さんの話をしたり(沼津のウチムラさん、近々また沼津にお邪魔します)、大型イベントではなかなかできないことも、このイベントでかなえられた。
「読夢の湯」ご店主の渡邊さんは同人誌やZINE、そのクリエイターにもリスペクトの念を持って下さっている。非常に安心して参加することができた。
出展料は当日「帰り」に支払い、というのも、すばらしい心遣いだ。売り上げから払いたい出展者もいるだろう。小さいことだが、われわれクリエイターへの思いやりが感じられた。この場を借りて感謝を申し上げたい。
渡邊さんに言い忘れたことが二つ。イベントのBGMがとてもよかったです。「真夜中のドア」が流れたときは思わず歌いました。もう一つ。お店でサウナ談義をするときはぜひ呼んでください。3時間でも4時間でも付き合います。
「ヨムフリ高円寺」。クセになりそうな即売会だった。次に参加するときは、また新しい旅の本を携えてお邪魔したい。
後記 アフターは小杉湯でひとっ風呂
イベント終了後、会場近くの「小杉湯」に行った。かねてから評判を見聞きし、いつか行ってみたいと思っていた。やっとかなった。
昭和8年創業、歴史ある銭湯だ。立派な唐破風の外観。浴場の富士山の壁画。東京らしい〝あっちい〟湯(椿油の湯は44度)。人は多いけれど静かで快適。「銭湯猛者」が多いのだろう。
若いスタッフが多いのも印象的。帰り、番台に「いいお湯でした」と声をかけると「ありがとうございました!」ぱあっとスタッフの顔がほころんだ。
後記2 中央線沿線カルチャーな飲み屋
ひとっ風呂浴びたらビールが飲みたくなって、小杉湯の近くの飲み屋に入った。扉を開けた途端、たばこのにおいがした。カウンターのみ10席ほどの小さな店。書架には古い「文学界」や演劇の雑誌が埃を被っている。カウンターの中には無口なおっさんマスターが一人。他にスタッフの姿はない。
生ビールと焼きそばを頼んだ。イベント後、湯上がりのビールはことさらにうまかった。焼きそばを作り始めたおっさんマスター。具はキャベツと豚バラのみ。何の変哲もない、家庭用のソース焼きそばだった。添えられていたのが紅しょうがではなく、寿司用の「ガリ」だった。お通しのジャガイモの煮たのが案外と(失礼)おいしかった。
私の後に、いずれも女性の一人客が二組(人)入ってきた。一人は静かにチューハイを飲んでいる。もう一人は常連らしく、マスターに今日行った美術館についてきゃっきゃと報告していた。それにマスターが穏やかに答える。ああ、シャイなだけの渋いおっさんなのだな。
中央線文化を体現したような、高円寺らしい店だった。
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