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『今朝もまた』

仕事からの帰り道、コンビニで缶ビール一本と炭酸水を買った。

年度末から今月にかけて、ここ数年になく案件が立て込んでいる。人が動き出し、経済が回り始めているのだろう。

「仕事があるってことは、ありがたいねぇ...」と、自分で言っておきながら、休日に携帯が鳴るとうんざりする。呼び出し音に家族が反応する。「出たくない」と言いつつも居留守を使うわけにはいかない。やはり、そこそこのストレスになるよな。始終、気が張っているせいで、睡眠も浅い。昔から、風呂上がりの晩酌が楽しみだが、こう忙しいと余計にやめられない。


ところで、そのコンビニにいる店員さんが、僕はちょっと苦手だ。


強面なのだ。


嫌だと思っているから引き寄せるのか、遭遇率も高い...。


昨晩もレジに彼が立っていて、なんかなあ、と心の中で思いながら支払いを済ませる。



翌朝、同じコンビニに立ち寄った。


(今日は握り飯がないし、パンでも買っていくか)


レジにいたのは、その苦手な店員だった...。


菓子パンを置く、支払いをする。


「ありがとうございます、今朝もまた」




『今朝もまた』



(え?)

その瞬間、苦手だと思っていた強面の兄さんと僕とが、「認識」という一本の糸で結ばれた。(赤い糸じゃないよ)


マスクの顔を覚えられていたのも驚きだったが、その一言の影響力に僕は胸を打たれた。なんか、嬉しかった。


たったひと言が人を救うこともあれば、もちろん逆のこともある。すごいんだよな、言葉って。


僕がのんびりくつろいでいた夜から、彼はきっとココで働いていたんだろう...

この後、上がるのかもしれない...。そんなことを考えていたら、こちらの都合で今まで彼に対して嫌な感情を持っていたことが、なんだか申し訳なく思えてきた。



妻に話すと、「強面って、どう強面なの?」と聞いてくる。

「髪をさ、こうやってピターっとオールバックにしていてさあ.....」

「ああ、それ、絶対に、永ちゃんのファンよ、そうに違いない」

「.....」


彼のたった一言がきっかけで、いつもの日常に笑顔がひとつ、ふたつ、増えていく。


テレビをつければ暗い話題ばかりで、何をすべきなのか、何ができるのか、不甲斐なさを感じることがある。でも、世の中の仕組みって、僕たちが頭で考えている以上にもっと、シンプルなんじゃないか。


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