困っていたら声をかけてくれる カナダ カルガリーの暮らし
3年前、カナダはカルガリーに越すことになったとき、母は「カナダに畑でも耕しに行くのか」と聞いてきました。いやいやいや、と、思わず苦笑。とはいえ、私も夫と会うまではカルガリーといえば、冬季オリンピックを開催したところ、というイメージくらいしかなく、実際に訪ねて、思ったより都会で驚いたのが事実です。電車も走っているし、バスの往来も活発。車がなくても、それなりに生活できるのです。
自宅からダウンタウン行くのにも、最初はバスを利用していました。乗ると、運転手さんが気軽に挨拶。乗り遅れそうになった学生の姿を見ると、通り過ぎても待っていてくれるようなのどかさがあります。東京で働いていたころ、時間に追われ、電車の2分遅れでさえ詫びる環境に慣れていたことと比べると、そんな情景が新鮮でした。
なかでも、忘れられないエピソードが。こちらにきて間もなく、妊娠してお腹が少し出てきたころのことです。語学学校の帰り道。駅からの道には、急な登り坂があります。運動不足、ましてや妊婦にとっては心臓破りの坂。この日は少し汗ばむくらいで、必死に坂を登っていました。すると上のほうから、初老の女性が声をかけてきました。「あらあら、大丈夫? ずいぶん疲れているようだけれど」と。なんとかうなずく私。さらに「大変ね。あ、いいものあげる。これ、どうぞ」とかばんの中から出てきたのは、豆乳でした。越してきたばかりで、まだこの街に慣れていなかったので、この優しさに涙が出そうに。「ありがとう」と手を合わせました。
東京でこんなことされたら、疑心暗鬼になって、この豆乳飲んで大丈夫かな、なんて思っていたけれど、そんなことはあるまい、といただいた豆乳をぐびぐび飲みほしました。
娘が生まれてからは、電車に乗ると、すぐに誰かが声をかけて席を交代。70代の母がこちらにきたときにも、すっと自然に席を立ってゆずってくれました。いつでも手を差し伸べてくれる、ご近所さんにも助けられています。
嫌な思いをしたことがない、といえば嘘になるけれど、人々のぬくもりを肌で感じられる。さらに車を少し走らせれば、ロッキー山脈の雄大な自然も迎えてくれます。都会と自然のバランスも心地いい。
40代をすぎて、日本を離れる人生が待っているとは思っていませんでしたが、世界へ飛び出してみないとわからないことはたくさんあるな、と実感することもしばしば。街自体はコンパクトで、もっと若くしてきていたら少し退屈していたかもしれません。30代まで存分に都会生活を謳歌した私には、タイミングもベストでした。まだきて3年ですが、愛着心は募るばかり。これからさらなる魅力を探って、カルガリー暮らしを楽しみたいと思います。