本屋大賞から受け取ったもの
『お探し物は図書室まで』が2021年の本屋大賞で2位をいただきました。
関わってくださった方々、おひとりおひとりに感謝でいっぱいです。ありがとうございました。
発表から10日ほど経ち、体も頭の中も慌ただしく動き回っていたところからようやく、落ち着いて振り返る時間ができました。
お祝いのお言葉をいただいたり、「2位」と書かれた帯が巻かれたりと、とても嬉しい気持ちで満たされる一方で、風呂掃除などしているときにふと「あれは本当のことか」などとスポンジを持ったままぽかんとしたりもします。
すべて私の妄想だったのではないか、なんなら作家デビューしたことさえ疑わしくなり、本棚に並ぶ既刊たちを確認してほっと胸をなでおろす、というのを何度も繰り返している日々です。
私にとってはそれくらい、びっくりなことだったのです。
いまだにノミネートされたこと自体に驚いています。年明けに編集さんから電話報告をいただいたときの、あの喜びの余韻が続いており、2位の実感を本当に持てるのはもっと先かもしれません。ありがたく、じっくりゆっくり噛みしめたいと思います。
『お探し物は図書室まで』の構成が固まり、原稿を書き始めたのはちょうど1年前の4月でした。予測できない状況が世界を包み、私たちの恐怖はウィルスそのものというよりも「わからない」という不安からくるものだったと思います。
多くの企業、学校、団体が動かないことを強いられ、何が正解なのか判断がつかない生活の始まり。
そんな中で、私に書けることは何だろうという自問が、常にありました。
そしてこの作品は私にとって、初めての版元さんであり初めての編集さんと作る本でした。
編集担当の三枝さんは保育園に通うお子さんがいらして、お母さんとしての心配事もきっと多かっただろうと思います。そんなことはおくびにも出さず、いつも力強く前へ前へと進めるよう伴走してくださった三枝さんの明るさに、どれだけ救われたか知れません。
ワクワクするアイディアと熱意でプロモーションを仕掛けてくださった宣伝さん、目を見張るフットワークで励まし支えてくださった営業さん、担当ではないのにこの作品を大事に思ってくださった編集さん方。
ポプラ社の皆さんとお会いするといつも、「本っていいよね!大好き!」というシンプルで大切な想いの循環の中にいられるように思います。すごく楽しくて嬉しくて、幸せな気持ちをたくさんいただきました。
本屋大賞という文字を見て、最初に思い出すシーンがあります。
デビュー作『木曜日にはココアを』が発行されたのが2017年8月。
翌年4月、最寄りの書店さんに積んであった2018年本屋大賞の冊子を、自分には関係ないと思いつつ手に取りました。
ページをめくっているうち、『木曜日にはココアを』が載っているのを発見したときの驚愕。あわわわと冊子を開いたままの状態でレジまで持って行きました。
もちろん買うときには閉じましたが、心の中では「やった!やったよ!ありがとう!見て!」と叫び、だらしない顔でニヤニヤしていたと思います。
そのときの点数は6.5点(イベントで3点と言ってしまったことがあるのですが記憶違いでした)。当時、私には身に余るほど尊い数字だと思いました。
PR要素がほとんどない、まったく無名の新人の小説です。一年に発行される作品は、それはそれは膨大な数ですし、書店員さんは本に囲まれてお仕事されているけれど勤務中に本を読めるわけではありません。読書するのも感想を書くのも、限られたプライベートな時間と体を使ってのことです。
だから、数人かもしれなくても私の作品に目を留めて心を砕いてくださった書店員さんがいる、そのことが嬉しくて嬉しくて、小躍りするような足取りで帰りました。あのときのことを今でもはっきりと覚えています。
あらためて、思います。
あの頃、埋もれてしまってもおかしくなかった私の小説を見つけてくださった書店員さんがいたから、それを読者さんに一生懸命届けてくださったから、私は今日まで書き続けることができたのです。
デビュー作のときも、今も、そしてこれからも、「1点」の重みは変わらないのだと身に沁みて感じています。
そして、投票の参加有無や順位結果とは関係なく、全国の書店員さんとつながりができたこと、私や著書の存在を知ってもらえるきっかけになったことが、今回私が受け取った一番大きなもののような気がしています。
『お探し物は図書室まで』は、書いているときも発売されてからも、私をいろいろな人に会わせてくれ、いろいろなところに連れ出してくれ、いろいろな経験をさせてくれました。
自著にこんなことを言うのはおかしな話かもしれませんが、私はこの作品にも、とても感謝しています。
これを書いている4月25日、3回目の緊急事態宣言期間に入りました。
再び、私に書けることは何だろうと自問する毎日です。
でも今は、たくさんの応援を受けて、「書きたいことを信じていいんだよ!」と大きな励ましをいただいたような気がしています。
これからも、ひとつひとつていねいに、筆を進めていきます。
本当にありがとうございました。