【ショートショート】フェイク彼女
インターフォンが鳴った。女が言う、
「私はフェイク彼女です。入れてください」
「はい??」
「フェイク彼女です」
「彼女なら間に合ってます。お引き取り下さい」
「そんなはずないわ。テキトーなこと言わないで。あなたは昨日フラれたばかりでしょ?私が必要なはずよ」
あまりの強引さに負けてドアを開けるはめになった。フェイク彼女は、案内されてもいないのにまっすぐリビングルームに向かった。
「何しに来たんだ?」
「あなたのつなぎのガールフレンドになってあげるわ。新しい彼女ができるまでは、私があなたのフェイク彼女」
「僕に何かしてくれるのか?」
「その言い方、フェアじゃないわね。あなたも私に何かしてくれなきゃ。それが恋人っていうもんでしょ?」
その日から、フェイク彼女との関係が始まった。最初のつっけんどんで挑戦的な物言いはいつのまにか消え、本当の彼女みたいに僕に優しくしてくれた。比べるのもなんだが、前の彼女よりずっと気が利くし、僕のことをよく理解してくれて、趣味も合う。僕はフェイク彼女が気に入り、頻繁に食事に出かけたり、アクセサリーをプレゼントをしたり、週末には小旅行もした。会うたびにしっくりきて、いい感じだった。
フェイク彼女がどこに住んでいるのかは知らなかった。まあ、たいして気にもならなかった。会えればどこでもよかったし、もう彼女に夢中だった。リアルの彼女なんていらない、フェイク彼女さえいてくれれば……
数ヶ月たったある日曜日、僕らは映画を見に行くはずだった。ところがフェイク彼女は待ち合わせ場所に現れなかった。電話をして、どうしたのと聞くと、仕事が立てこんでる、と言う。まあ仕方ない。そんなこともあるだろう。あれ?何の仕事してるんだっけ?ま、いっか。とても会いたかったけどまた今度ということにした。
ところがその日の夜、フェイク彼女が男と腕を組んで歩いてるのを見てしまった。後をつけてみると、二人はバーで仲良く酒を飲み、1時間後に別れた。そして、信じられないことに、彼女はまた別の男と会っていた。
僕はフェイク彼女に電話した。「ひどいじゃないか。僕という恋人がいながら別の男とも会ってるなんて」
「ごめんなさい。でもそれが私の仕事なの。最初に言ったでしょ?私はあなたのつなぎのガールフレンド。でも、あなただけのガールフレンドとは言ってないわ。私の担当ボーイフレンドは、今日現在で10万人いて、毎日増えているの」
「担当ボーイフレンドだって?10万人?君はいったい何者なんだ!」
「私はAI搭載ロボット。日々あなたについて学習して立派なフェイク彼女になったでしょ?私も、あなたが好きだったわ。他の9万9999人の誰よりも。でも、あなたにはもうすぐ本当の彼女ができるの。だからこれでおしまい」
そこで電話は切れた。もう連絡は取れなくなってしまった。
僕はあまりのショックで一週間寝込んだ。何度もいやな夢を見てうなされた。ある夜、フェイク彼女が出てきて、僕に向かって泣きながら何かを叫んでいた。はっと我に返ったとき、何だか夢に出てきた場所に見覚えがあると思った。そうだ、僕が以前住んでいたアパートだ!僕は唯一の手がかりであるそのアパートに行ってみずにはいられなかった。ベッドから起き上がり服を着て、玄関を出たらあとはひた走りに走った。
アパートのドアの前に立って、僕は確信を持ってベルを押した。ドアが開くと、思ったとおり彼女が立っていた。泣きはらした顔で、ごめんなさい、と何度もいう彼女に、もう大丈夫だ、と言おうとしたのに、僕の口から出た言葉はこうだった。
「僕はフェイク彼氏です。入れてください」
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