【散文詩】悩みのタネをまきました

むかしむかしむかし、悩んでいる時にできる心のしこりを、人々は悩みのタネと呼んだ。ある男が、悩みのタネを地面に撒いた。するとすくすく育って、この世ではじめての木になった。まわりの人々にも、悩みのタネを撒くように勧めたら、村中、木で溢れた。悩みが大きいほど大きな木になり、悩みが多いほどたくさんの木が生えるため、人々は競うように、何かにつけ悩むようになった。ある頃から、一儲けしようと木を切り倒しては売る者が出てきた。悩みのタネから育った木を切り倒すと、悩みのガスが出た。様々な悩みのガスが世の中に蔓延すると、人々は得体の知れない悩みにとらわれ、疲れ果てた。この得体の知れない悩みにはタネはできなかったから、植えることもできなかった。人々はいがみ合い、争う世となった。あるとき、一羽の鳥がやってきて木の切り株にとまって歌った。「今は昔の、悩みのタネまき、悩みのタネまき、あったとさ。ここに死体を埋めたのだあれ?」


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