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【ショートストーリー】パリスとリネットのねずみ算
サーシャの誕生会があった。招待された友だちの中にパリスとリネットの姉妹がいた。お庭でのパーティーには200個もの風船が盛大に飾りつけられた。
パーティーの途中、パリスとリネットはバスルームを借りるために家の中におじゃました。玄関を入って、リビングルームをとおりキッチンの左奥がバスルームだ。順番にお手洗いを借りて、庭に戻る時、キッチンのサイドテーブルの下に小動物が動くのを見つけた。
ハムスターだった。サーシャが飼っている〈ナゲット〉じゃない?ケイジから逃げてきのかも。二人で捕まえようとテーブル下にもぐった時、パリスがテーブルの脚を蹴ってしまった。上にあったお皿が落ちた。お皿は割れなかったが、入っていたキャンディバーが床に散らばった。驚いた拍子にリネットがハムスターを踏んでしまった。小動物はそれっきり動かなくなった。
二人は慌てた。散らかったキャンディバーはそのままで、お皿をハムスターの亡骸にかぶせて庭に戻った。幸いみんなトランポリンに熱中していて、二人がいなかったことを気にする者はいなかった。
〈ナゲット〉がお皿の下で死んでいることに誰かが気づいて、犯人探しが始まったらどうしようと、パリスとリネットは気が気ではなかった。ところが誰も気づかぬまま、誕生会はお開きとなった。
翌日、異変が起きた。姉妹が学校から帰宅するとなんと、ベッドの上にハムスターが1匹、こちらを向いて座っていた。もっと気持ち悪いのはそれからだった。どこからやって来るのか、次の日には2匹になった。そのまた次の日には4匹になり、そして8匹、16匹、32匹……と毎日増えていくのだった。
リネットとパリスは、ハムスターがねずみ算式に増えていくことに恐れを感じた。部屋にそんな数のハムスターがいたら、お母さんは怒るだろうと心配もしたけれど、それは大丈夫だった。パリスとリネット以外の人には見えていないらしい。
ハムスターが1024匹になったところで、パリスとリネットはもう限界だと思った。謎を探るため、遊ぶ約束を取りつけて再びサーシャの家に出かけて行った。ハムスターが姉妹の部屋に現れたのは、誕生会でのあの出来事と関係ありそうだし、サーシャの家に何か秘密があるに違いないと考えたからだ。
なんと、サーシャはハムスターの〈ナゲット〉を手のひらにのせて姉妹の前に現れた。誕生会の日に殺してしまったのは〈ナゲット〉じゃなかったんだ。二人は顔を見合わせた。少し安堵した。
サイドテーブルの下に落ちたキャンディバーとお皿は、なんとあの日のままだった。サーシャの家の人が気づかないわけはない。増え続けるハムスター同様、こちらも二人以外の目には写っていないのか?サーシャが席を外したところで、パリスが恐る恐るお皿を持ち上げ、リネットが下を覗いた。そこにはもうハムスターの亡骸はなかった。サーシャの足音がしたので、お皿を床に戻した。この時、一本のキャンディバーがお皿の下になった。
さて、このあとパリスとリネットに何が起こったとお思いだろうか?
なんと今度は、一生食べ続けられるほどのキャンディバーを毎日ゲットすることになった!ハムスターと違って、こちらは大歓迎。問題は二人にしかキャンディバーが存在しないということ。もしみんなにも見えていたら、今ごろMARSやHERSHEY’Sのような世界的キャンディカンパニーを経営して、大金持ちになっていたかもしれないのに。
ハムスターはどうなったか?キャンディバーが増え始めた日に跡形もなく消えてしまった。
下にある物を何でも増やす魔法のお皿。もしあのお皿が手に入ったら、みなさんは何をその下に置きたいと思うだろうか。誰にも自慢できないけど、一生持ち続けたいものは何だろう。