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【ショートショート】プラシーボ万歳!

 プラシーボ効果とは、偽薬(本当は薬ではない成分)を投与したにも関わらず、患者が自分の飲んでいる薬は効き目があると思い込むことで、病気の症状が改善する現象のこと。

          ◇

 「ではお薬を一週間分、処方します。それで様子を見ましょう。一週間後に来て下さい」とドクターは言った。

 私は知っていた。その薬がプラシーボであることを。私は治験者。でも私が知っていることをドクターは知らない。

 私は言われたとおり「お薬」を服用して、一週間後に再び病院を訪れた。

 「どうですか。症状は少し改善されたでしょう?」ドクターは自信たっぷりに訊いた。
 「はい。順調です。血圧も安定して、今週はとても気分が良いです」
 私がそう言うと彼は満足そうな笑みを浮かべた。血圧が安定していたのは、以前に処方された降圧剤をのんでいたからに過ぎない。

 私はもうちょっとこのドクターをからかってみたくなって「あの、ドクター」と続けた。「このお薬には育毛効果もあるのですか?これをのみ始めて以来、なんだか髪の毛の色艶がとても良くなってきたみたいなんです。気のせいでしょうかね」
 ドクターは自分のつるつるの頭に手を置いて
 「ほほう。もしそうなら私も試したいものだが、そのような成分は入っていませんよ。気のせいでしょう」と軽くあしらった。「お薬はもう一週間服用してください。ではまた来週」

 次の週、来院して私はこう言った。
「ドクター、やっぱりあの薬には髪に効く成分が含まれているにちがいありません。この辺の薄くなっていた所に髪が戻ってきてるんです。間違いありません」私はもともと割と毛のあった頭頂部に手を当てて、ドクターに見せた。
 ドクターはやや動揺しながらも威厳を保ちつつ、「血圧は安定してきたので、一度お薬をストップして様子を見ましょう。異常があればすぐに来院してください。髪のことですが、本当にほかに心当たりはないのですか?」と尋ねた。
「いいえ。この薬をのむ以外特に何もしていません」

 それから半年後、駅でドクターを見かけた。予想どおり、ドクターの頭にはホワホワと短い毛が生え始めていた。

 プラシーボ万歳!!

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