見出し画像

オール・ディス・タイム①

「あの女、マジでクズですよ」
お猪口に入った鍋島をクイッと飲み、Iはそう言った。

「知ってます?あいつ、Nの金で専門に入ったんですよ?N、大好きだった元カノと一緒に通うからってお金出しましたけど、まあ、それはそれでやめとけって話なんですけど。あいつ、速攻で男作って、休み時間中ずっとイチャイチャしてたんですよ、Nの目の前で。頭沸いてんですかね?Nもそれに耐えちゃったもんだから、向こうも図にのったみたいで。それで、専門卒業したら、音沙汰が無くなったみたいで。あり得ないでしょ?」

合間合間で鍋島をクイクイ飲みながら、一方的に捲したてている。熱を帯びた口調から、本当に嫌いであることが伝わる。こちらからKの話を振ったわけではないのだが、昔話をしていた流れで、Iの導火線に火をつけていたようだった。

「でまあね、よせばいいのにNもまた付き合いだして、そのうえ結婚までしちゃって。あ、結婚したの聞いてました?」
「Mからチラッと聞いたことがあったかな」
「ああ、Mくんから、、、、最近もよく会うんですか?」
元旦那の名前が出てきて、Iの勢いは少し落ち着いた。
「いや、この間たまたま飲んだぐらい。Iちゃんは会うことあるの?」
「あたしにも時々LINEはきますよ。でもねえ、お互い再婚してるじゃないですか。子供もいるし。いまいちMくんのLINEってわかんないんすよね」
「どんな内容なの?」
「別に、ふつうですよ。向こうからLINEがきて、少し雑談して。会おうって誘いもないですしね。ほんと、何がしたいのかわかんない感じです」

NとMは大学のサークルの後輩で、Iも同じ大学だった。3人とも同学年で、MとIは大学の頃から付き合っていた(何度かくっついたり離れたりを繰り返し、結婚してから別れた)。Iと俺とは、たまたま顔を出した後輩たちの飲み会で知り合った。「Gさんですよね。お話は聞いてます!」と向こうから話しかけてきて、なんやかんやと話が盛りあがった(話してた内容は当時の俺の女関係だった。「へえ!色んなひとと付き合ってますねえ!まあ、あたしも高校ん時に年上のいとこと付き合ったりしましたけど!」)。
「音楽の趣味合いそうなんで、今度2人でカラオケ行きましょうよ!」と言われ実際に行くことになり、そこからちょくちょく2人で遊ぶようになった。大学を卒業し、20年ほど経つ今も、ときどき2人で飲んでいる(Mからは「元旦那の俺よりGさんとよく会ってますよねえ」と言われたりしている)。

今日もその飲みだった。
「あ、それでね、N、Kと結婚したんですけど、もう別れたんですよ。あ、そもそも結婚してたの知ってます?」
もちろん知っている。
「いや、そうなんだ」
「そもそもねえ、結婚なんてしなきゃ良かったんですけどねえ。岡惚れって怖いですね」
「いやに言い回しが古いな」
「ははっ。それでね、別れた原因もね、あの女の浮気なんですよ。会社の上司とね、向こうも既婚者でね、N、探偵雇ったんですって。そしたらアッサリバレてね。ようやくNも目が覚めて、離婚したんですって」
「へえ」
「けっこうな間、浮気してたみたいですよ。それこそ結婚する前から。ねえ、ほんと許せないですよねえ。あの女、最低ですよ」
Nとは麻雀仲間で仲が良かったIは本当に怒っていた。彼女はよく友だちのことで怒っていた。あんな酷い目に遭わされたそうなんですよ、あり得ない。そして彼女は男女関係の乱れにうるさかった。浮気とかって最低じゃないですか?

そうだね、君は大学時代に1人で俺の家に来て、なし崩し的にキスをして脱がされて下着1枚になってたね。乳首やらを触ると、ほんと気持ち良さそうな声をあげてたね。挿入は許さなかったけど、俺のペニス見たことないでしょ?って煽ったら自分からペニスを取り出してしゃぶり出したね。彼氏の名前を出して「淋しい想いさせてると、Gさんとヤッちゃうぞ」と楽しそうに言ってたね。そんなことが2回ぐらいあったね。どちらとも、口の中が俺の精液で満たされて不味そうな顔をしてたね。君の浮気の基準は、そこなんだね

そのあと、話題はあちこちに飛んだ後、終電も近いので店を出て我々は別れた。彼女は笑顔で「また飲みましょうね!」と言って去っていった。俺も笑顔で見送り、ひとり駅へと向かった。そうか、結局Nとは別れたのか。小さな答え合わせに、俺の頭の中はどんどん過去へと引っ張られ出した。

Kが上司とどの程度の期間、浮気していたのだろう。
それは、俺との期間と被ってたんだろうか。そして、誰もKと俺が親密であったことを知らないのだ。おそらくは。

今なお、俺はKと話がしたい。当時の関係についての、すべての答え合わせがしたい。もし、俺が当時のすべてを放り出していたら、俺は未だに君といられただろうか。どんな最悪な過去があろうと、俺は一緒にいられただろうか。それとも、Nのように、ただ捨てられたのだろうか。

「わたしのことなんて、踏み台にして忘れるんだろ」

それは呪いと呼ぶに相応しいほど、俺を捉えて離さなかった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集