見出し画像

初めての横溝正史と活版印刷

およそ1年半前だったか、上京してきた母と共にはじめて神保町を訪れた。

母とは趣味がよく合う。

その日は午前中に上野にて「兵馬俑展」を観覧した。

その流れから中国文明の話題で持ちきりになり、「いつか西安に本物の兵馬俑を見に行こう」と契りを交わした。

母が元気なうちに親孝行できたらと思う。

この町で私は、1956年刊行の京劇の本を買い、母は以前日本で開催された兵馬俑展のガイドブックを購入した。

そんなこんなでさまざまな書店を周り、他にも世界の航空博物館の本や、小説なんかも数冊買った。

その中の一つが、横溝正史の「支那扇の女」だ。

昔の小説など殆ど読んだことがないので気づかなかったが、かの有名な「金田一耕助シリーズ」らしい。

読んでみると文章は読みやすく、また今時にはない言い回しもあり、とても面白い。

1990年代発刊ということもあり、文庫本そのものにもなかなか味がある。

読んでいくうちに、ふと文字の異変に気がついた。

とあるページの一文字だけ、90度横にひっくり返っているのだ。

今までデジタルの印刷物しか見たことがない平成生まれの私には、些かこの誤植には目を引かれた。

私は活版印刷の存在は知っていたが、たった30年前の大衆文学の印刷技法がこれだとは思っていなかった。

古い小説を何十年もあとに新装丁版として発売されることはよくあるが、初版にしかない味わいもあるのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?