[書評] 長生きにこだわらない
矢作直樹『長生きにこだわらない』(文響社、2019)
「あと何年」と逆算せずに今を楽しむ
本書で著者は〈「あと何年」と逆算的に生きるのは厚かましい〉と述べる。これは神道でいう〈中今〉の考えからきている。
逆算的に考え過ぎると自縄自縛に陥ると。よって好きなことをして今日をまずは楽しむ。これを奨める。
〈「あと」とか「まだ」という言葉は脳に不要な情報〉であると断言する。
例えば、マラソンをしているとする。〈あと何キロと考えた時点で「まだ何キロ」という言葉が心を支配し、余計につらく〉なると。
明日どころか次の瞬間があるかどうかもわからない。今この瞬間に〈五体がちゃんと動いている事実に、まずは感謝〉というのが著者の主張である。
〈肉体の動向は本当に予想がつきません〉と著者が言うのは、救急医としてそれを体験していることもあるのだろうし、中今の思想を日頃生きていることもあるのだろう。
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本書は実際的な知恵や助言にあふれており、手許にあると何かにつけて参照したくなる本だろう。
印象的な著者の言葉を少し挙げる。
・〈役に立つという価値観自体、不要〉
[やってみたいことが世の中の役に立たないかもしれない、それなら意味がないと悩む人がいるが、役に立つか立たないかの判定は難しいので、それを考える必要は1%もないと著者は断言する。]
・〈“スマートエイジング”という考え方があります〉
[著者は「加齢」しても「老化」はしないと考える。よってアンチエイジングより“スマートエイジング”の「加齢によって物事の見方が深まり、視野が広がることで人生が豊かになっていく」という前向きの認識を評価する。心身の“老化”はしないという観点から、著者は、体については「自分の体の声を聴くこと」そして「自分に、自分の体に、無心に感謝すること」を奨め、心については「老化する・老化しない」という意識を自分の中からなくすこと、感謝の念で中今を生きることを奨める。]
・〈肉体は三次元のこの世で活動するための乗り物〉
[これに対し〈魂というのは私たちの根源的なエネルギー体であり、魂こそ、あの世とこの世を行ったり来たりする本体〉であること、〈それが理解できれば、そもそも死を心配する必要がない〉と著者は述べる。]
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本書の楽しい趣向として、著者のふだんの食事内容がカラー写真で載っている。意外にアーモンドが多いのに驚く(朝食と昼食にそれぞれアーモンド7〜8粒を含む)。評者は少し違い、朝食と夕食に含まれるアーモンドがそれぞれ3粒と2粒だったが、これを見て再検討したくなった。
さらに、著者のふだんの体操もカラー写真で載っている。家で隙間時間にできる簡単な運動だという。といいながら、実際にやってみると、意外にコツをつかむのがむずかしい。特にキャット&ドッグというポーズをとる体操(背中と腰を丸めるポーズと、背中を反らし骨盤を突き出すポーズ)が、うまくできているかどうか自信がない。載っている矢作氏の写真を見ると、確かに猫と犬の姿勢にそっくりである。特にドッグのほうで背中をしなるように反らせる氏はすばらしい。