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[書評] はたらく=はたをらくに

「岩戸開き」第13号(ナチュラルスピリット、2024)

隔月刊の雑誌「岩戸開き」の冊子体を初めて読んだ。第13号(2024年7月・8月)である。

これまでは電子版でときどき読んでいたが、紙の本を手に取ると印象が変わる。

まず、大きい。B5判だ(25.8 x 18.3 x 0.7 cm)。全編カラー。紙質もよく、手に取った誌面の感じはいい。

ただ、頁数の割に高いという印象は正直ある(全128頁)。この価格の単行本なら当然期待するだけの質が果たしてあるか。そこが勝負だろう。

さまざまな話題を詰込んで多様な読者の期待に応えようとする姿勢が窺える。幕の内弁当的といえばよいか。

ただし、中身が色々だと、かえってむしろ読者の目は厳しくなる。幕の内弁当でも一品一品おろそかにできないのと同様だ。

厳しい目で見ると、校正が不十分だ。一目見ておかしいという箇所がいくつかある。前後関係から正解が汲取れる場合はまだよい。が、データに関る部分が間違っていると、救いようがない。

対談者などを除けば、執筆者は20名くらいは居る。ある意味当然かもしれないが、執筆者によって質はバラバラだ。評者はこれはと思う箇所には附箋をつけながら読むが、残念ながら本号には一箇所も附箋をつけなかった。それほどの内容がなかったのだ。

特集記事に期待して買う読者は多いと思うけれど、読んで残る内容は評者の場合は殆どなかった。本号の特集は〈危機の時代の食と農 前編〉というもので、内容がよければ、続く後編も読みたいと思うところだが、本号の内容には失望した。失礼な言い方になるが、ちょっと読者を舐めているのではないか。食と農の問題を扱うだけの見識が編集スタッフにあるのか疑わしい。本誌はむしろ霊的な進路をさししめす方面の記事ですぐれたものが多い。

その意味で、これはと思ったのは、『神道引き寄せの法則』新刊著者インタビューである(76-79頁)。著者の古神道修道士・矢加部幸彦氏の話に、〈仕事にしても、本来は「はたらく」とは、「傍を楽にする」ことでした。〉の言葉がある。はっとさせられる。

もっとも、これは語源的解釈などでなく、著者による神道的人生観からの応用的解釈だろう。本来の意味はおそらく〈動く〉ではないか。

『精選版 日本国語大辞典』(2006)によると、「はたらく」の本来の意味は〈からだを動かす。動く。〉であり、そこから〈努力して事をする。精出して仕事をする。労働する。〉の意味が派生し、〈中世になると、この意味を表わすために「人」と「動」とを合わせて「働」という国字ができた〉とのことである。

本誌インタビューでは、氏はまた〈千早振るとは、超高速振動です〉という言葉も述べている。

この言葉はにわかにはピンと来ないが、神道音楽家でもある氏が、アルメニア国立ロシアン美術館でおこなった奉納の演奏などを聴くと、言葉を超えた〈まつり〉の精神を感じとることができる。氏によれば、〈まつり〉とは、本来は〈真釣り〉で、〈神の真(まこと)の心と、人の真心が釣り合〉うことであるという。〈真(まこと)を真釣り合わす〉と、あのような独特の空間の振動が生まれるように思われる。

なお、アルメニアは世界で初めてキリスト教を国教とした国で、今も原始キリスト教の伝統を保持している。そんな国で、神道家が奉納をおこない、アルメニア人と日本人との間に魂の共鳴が起こるとは。すばらしいことである。

#書評 #神道 #はたらく

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