[書評]秘密を持った子供は時として「無邪気な子供」を演ずる必要がある。あるいは「語る石」
森奈津子の短篇小説「語る石」(e-NOVELS)は幼い子が父の机の上にふしぎな石を見つけるところから始まる。
その石は子供である麻衣子に様々なことを語り聞かせる。その中で、心に最も強く残ったのは、「人間の肉体と魂の関係についての考察」だった。
「肉体は魂の錘(おもり)なんだ」
小学校にあがる前の麻衣子には難しい言葉だ。だが、石は「肉体」や「魂」といった言葉を説明して聞かせた。
「魂は空気より軽いもんだから、上へ上へと昇りたがる。その魂をしっかりと大地に押さえておくのが、肉体なんだ」
石は続ける。
「だから、おまえも油断するなよ。ボーッとしてると、すぐに死んじまうぞ。風船みたいな自分の魂を、しっかりつかまえておけよ。わかったな?」
肉体は魂の錘——それが真実か法螺かは麻衣子には判断しかねる。ただ、石が語るその話がとても好きだ。
ある日、石はとんでもないことを麻衣子に語る。そして、ある指令を発する。麻衣子はどうするのか。
「秘密を持った子供は時として『無邪気な子供』を演ずる必要がある」ことを麻衣子は再確認する。
秀逸な短篇だ。
森奈津子「語る石」(e-NOVELS)