[書評] 聖霊
ヨハネ・パウロ二世『聖霊』(ペトロ文庫、2005)
真理の霊の現存を語る回勅は三位一体の理解にも資する
教皇ヨハネ・パウロ二世が1986年5月18日の聖霊降臨の祭日に公布した回勅。回勅とは、カトリック中央協議会の説明によれば〈教皇が信者の信仰生活を指導することなどを目的に、通常は全カトリック教会にあてて送る書簡〉のこと(ラテン語 Litterae encyclicae, 英語 encyclical (letter)[同文通達])。
本回勅 Dominum et vivificantem はヴァティカンの サイト でも読むことができる(9か国語)。
結論から言えば、聖霊について、あるいはそれにからむ三位一体について、典拠を明らかにした神学的考察が読みたい場合には、その洞察の深さにおいて本回勅は第一級の文書である。表面を撫でたような言説は他に無数に存在するだろうが、ここまで深く考察した文書は管見の限りでは珍しい。真剣な熟読に値する文書である。本回勅は上記のように、ウェブ上でも英語等で読むことができるが、典拠をおさえつつ、じっくり読むには、本書は(文庫本ではあるが)好適である。
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本書が挙げるポイントのうち、重要と思われるところを、以下、抜書きする。
〈「弁護者、すなわち、父がわたしの名によってお遣わしになる聖霊が、あなたがたにすべてのことを教え、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる」[ヨハネ14.26]という(イエスの)ことばは、聖霊は独自のしかたで、救いの福音を告げ知らせることを鼓舞し続けるということだけではなく、キリストの告げ知らせたことを人々が正確に理解するよう助ける、ということも表しています。〉(15頁)
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〈「そのかた、すなわち、真理の霊がくると、あなたがたを導いて真理をことごとく悟らせる」[ヨハネ16.13]ことは、信仰において、信仰を通して成就されます。つまりこのことは、真理の霊のわざであり、人間における霊の働きの成果なのです。この点に関して、聖霊は人間の最高の師であり、人間精神の光です。〉(18頁)
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〈イエスは、この「受けて」ということばを説明するかのように、源泉の神的で三位一体的な一致を明らかにして付け加えます。「父が持っておられるものはすべて、わたしのものである。だから、わたしは、『そのかたがわたしのものを受けて、あなたがたに告げる』と言ったのである」[ヨハネ16.15]。〉(19-20頁)
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以下、考察はどんどん深まってゆく。こうした記述をみると、イスラーム(三位一体や聖霊は認めない)との溝は広がるばかりである。新約聖書の福音書は啓典に含めるとはいっても、このあたりの内容は範疇外ということになるのだろう。