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サイトカインと再生医療

最近、サイトカインと再生医療の関係について注目が集まっているようです。サイトカインは細胞から分泌されるたんぱく質で、細胞間の情報伝達物質でしたね。そして、免疫細胞を活性化したり抑制したりと免疫機能に深く関わっていますので、バランスが崩れると大変なことになりましたね。また、サイトカインは組織の修復や機能維持にも関わっています。具体的には、細胞の増殖や分化等にも働きかけますので、こういった部分が再生医療の分野でも損傷した組織の修復を促す治療法として利用されるようになってきました。

再生医療では万能といわれる幹細胞を用いますが、この幹細胞を培養しているとサイトカインが分泌されます。そしてこれを抽出できることが分かってきたということが大きな理由になっています。

幹細胞はどこかの組織の細胞というわけではなくて、フリーといった感じでしょうか。そして、さまざまな種類の細胞に分化することができるうえ、自分自身と同じ能力を持つ細胞を生成する能力も持ちます。こういった能力を買われて再生医療の分野で活用されているわけですね。

ただ、幹細胞がいくら万能でも、数に限りがあります。ですから、まず体から採取したら培養をして増やさなければなりません。培養することによって幹細胞が増えたのは良いのですが、それをもとの身体に戻すという事になると、とても大きなリスクを伴う事になります。なぜなら、増えた幹細胞以外にも様々な物質が培養液に含まれているからです。この中には培養中の幹細胞から分泌された、細胞の再生に重要な働きをするサイトカインも多数含まれています。

リスクを冒して幹細胞などを体に戻さなくても、再生に関わるサイトカインを体に戻せば再生医療は期待できますので、培養した細胞を除いた上清液の方を用いる方が安全に行う事が出来ますよね。もちろん、体に入れるわけですから危険な免疫反応が起きないようにキチンと処理をしたうえで行う必要があります。

サイトカインが組織の修復にどのように関わっているかについてですが、サイトカインは細胞から分泌されるものでした。ですから、組織の損傷した部分の細胞から様々なサイトカインが分泌されて、他のサイトカインや細胞を呼び寄せます。これによって細胞の増殖や分化を促進させて、組織再生のスピードを早めます。そのためには細胞の代謝による成長が必要ですから、新たな血管をどんどん作って必要な栄養を届けなければなりません。そのための血管の新生もサイトカインが進めます。そして、酸素や栄養の供給が滞らないように支援します。

修復が行われている場所では言ってみれば炎症が起きているわけなのですが、サイトカインは炎症にはずいぶん関わっている物質でしたよね。炎症性のサイトカインと抗炎症性サイトカインとがバランスを崩さないようにしっかりと調節しながら、組織の修復を促進するという事も必要になります。そのうえで、もともとその人の身体が持っている幹細胞を活性化させて損傷している場所に移動させて修復を促す、そういった働きもします。

私たちが知らないところで、体の中では大変にダイナミックな動きが起きているのですね。ここで再生医療に関わるサイトカインをいくつか挙げておきます。
VEGF (血管内皮細胞増殖因子): 血管新生を促進
FGF (線維芽細胞増殖因子): 細胞の増殖と分化を促進
PDGF (血小板由来増殖因子): 細胞の増殖と創傷治癒を促進
EGF (上皮細胞増殖因子): 上皮細胞の増殖を促進
SCF (幹細胞増殖因子): 幹細胞の増殖を促進

こういったサイトカインの働きもあって、幹細胞を用いることで組織の修復が可能なります。先にも挙げましたが、幹細胞は様々な形に分化できる能力を持つものですので、組織細胞に限らず全身のいたるところで活用できるという特徴があります。実際に応用されている内容を見てみると、創傷の治療として潰瘍のような場所での利用も見込まれるわけですが、創傷にとどまらず軟骨や神経細胞などの再生、機能回復といったところにまで期待されているようです。

良い事尽くめのように書いてきましたが、当然ですが課題もあります。サイトカイン自体は強力な生理活性物質です。用いる量は慎重にしないと、それこそ暴走したり副作用が出たりする可能性があります。また、効果が出て来る度合いも個人差が出るのは否めないでしょう。さらに非常に高度な技術や設備を要する、高額な治療法です。まだまだ、誰もが気軽に治療を受けるというわけにはいきません。そういったことも踏まえておく必要があります。

そういったことの改善も含めて、今後の研究に期待が持たれています。

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