07、ストレスと脳
ストレスが脳に及ぼす影響
前回はストレスは脳の前頭前野を委縮させて、その人物がキレやすくなったりすることを簡単に触れました。今回は、その辺りの話をもう少し詳しく書くことにします。
まず、神経細胞の構造の話から。1個の神経細胞は大きく2つの部分から成っていて、細胞の部分とひも状に伸びた軸索の部分にあたります。細胞の方は「細胞体」と呼ばれて、多数の突起を持っています。これが「樹状突起」と言われるもので、ここが信号の入り口になります。軸索の方は1本で、末端が枝分かれした糸の束のようになった「終末側枝」と呼ばれる部分があります。これが別の神経細胞の樹状突起と繋がって、信号の出口になります。
複数の神経細胞が集まって形成するネットワークは、終末側枝からつながっている樹状突起に信号が流れて、それが細胞体、軸索を通ってその神経細胞が終末側枝で繋がっている別の神経細胞の樹状突起に渡していきます。このようなネットワークに記憶や情報などが蓄えられているという話ですね。
ストレスがかかり続けることでコルチゾールの分泌が続くと、脳に届いたコルチゾールを分解して無毒化する能力を上回ってしまいます。そうなると、脳が萎縮して容積が小さくなる、とくに前頭前野の部分が萎縮することでキレ易くなるという話のところは前回書いた通りです。
脳の前頭前野という場所、実際に損傷を与えるとされているのは主にドーパミンやアドレナリンの方で、コルチゾールは海馬の方に損傷を与えるようです。ストレスでアドレナリンとコルチゾールは必ずしも脳の同じ場所を損傷させるのではないとして、それぞれによって結果として脳の広い部分に損傷を与えることになってしまうんです。
どんな損傷かというと、神経細胞同士のネットワークを壊してしまうというもの、神経細胞の樹状突起の部分を萎縮させてしまうんです。これによって、情報や記憶などのつながりが途絶えてしまって、脳としての容量が小さくなったり、症状として物忘れが多くなるなど、終いには認知症状にまで及ぶことになるんです。
さらに、前頭前野は理性に直接関わる部分ですから、ここが萎縮すると感情の抑制ができなくなる結果、キレやすい人物になるんですね。
海馬の方は記憶に関わる所ですから、こちらも委縮して働きが悪くなると大変です。認知症との関連も注目されています。
さらに、アメリカの研究でこんなことが分かったとの発表がありました。それは、「コルチゾールの値が高い人ほど、もの忘れた多い」というもので、認知症状やその兆候がまだ表れていない働き盛りの男性でそんな傾向があったという内容です。同時に、脳の容積もコルチゾールが高い人は正常な人に比べて、少し容積が小さかったのだとか。参加した対象者は2000人余りだそうなので、これはずいぶん信ぴょう性がありそうですね。