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19、亜鉛の話

亜鉛の事について、私には忘れられない話があります。もう15年くらい前の話になりますが、当時勤務していた病院で褥瘡の対策に関わっていた時の事です。高齢で寝たきりの入院患者さんはどうしても褥瘡(床ずれ)が出来てしまう傾向があります。もし、そのリスクが高いかどうか、事前にある程度でも知ることが出来れば、日常ケアを担当する看護師さんの負担が少しは減るんじゃないかと考えていた頃です。

ある患者さんの話です。その人は寝たきりの高齢者で褥瘡があったのですが、ある時を境に褥瘡がゆっくりと軽減する方向に変化し始めたんです。しかし、身体の状態は何も変わっていません。いったいどういう事なのかと思って管理栄養士さんに尋ねてみたら、亜鉛を増強したゼリーを食事に付けていたとのことでした。そういえば亜鉛やマグネシウムは全身のいろいろな場所で起こる生化学反応に関わっています。ですから皮膚の細胞の再生にも影響を及ぼしたのでしょう。その結果、褥瘡のキズが治る方向に転じて少しずつでもよくなっていった、そんなところらしいという事でした。

さて、そんな亜鉛ですが、大人の場合は体内におよそ2グラム存在しています。その多くが筋肉や骨に含まれていますが、皮膚や肝臓、腎臓、膵臓、脳等にも分布していて、様々な酵素の材料となっています。とくにたんぱく質の合成に関わる酵素の材料として知られています。そして多くの生化学反応に関わっているんですね。

亜鉛もミネラルの一つですから、食事として外から取り入れるしかありません。一日あたりの摂取量は、男女とも推奨でおよそ10ミリグラム前後です。もちろん、過剰摂取も不足になっても何かしらの不具合が出て来ます。ただ、日本人全体としてみて、どうやら摂取の量が不足気味らしいということが分かっています。

過不足になった時の症状を考えてみると、何かに理由で過剰摂取になった場合は健康被害として銅の欠乏、鉄の欠乏による貧血、胃の不調など様々な症状になることが知られています。また不足が生じると、皮膚炎や味覚障害、食欲の低下、下痢などの症状が現れることがあります。小児の場合では成長障害や性腺発育障害になる可能性も知られています。

亜鉛の働きは不足した時に出てくる症状からも分かる通りですが、様々なところで役立っています。例えばこんなところです。

 ・味覚を正常に保つ
 ・身体の皮膚(肌や毛髪)や粘膜を健康な状態に保つ
 ・身体の発育や成長を助ける
 ・貧血を改善する
 ・抗酸化酵素の成分になる
 ・生殖機能を維持する
 ・免疫機能を維持する
 ・うつ状態の改善


こういった働きを持っています。最初に挙げた話では身体の皮膚に対する働きを発揮したのでしょう。

亜鉛自体の吸収率は30パーセントくらいだといわれていて、先に書いた通りすべての年代でどちらかというと不足気味です。そのため、吸収率をアップさせるためにはビタミンCを一緒に摂ると良いとも言われています。普段の摂取量が不足気味だからといっても、サプリメントなどを安易に使って摂取するのは注意が必要です。サプリメントは便利ですが、摂取しすぎたりしないよう、くれぐれも過剰にならないように注意しましょう。


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