スタートレック:ピカード シーズン2感想文おかわり。Qの心境を深掘る。
以前にスタートレック:ピカード Season.2についての感想はざっとまとめましたが「おかわり」的な感じでもう少し。
Q連続体の一員「Q」とジャン=リュック・ピカードの関係について改めて触れたいと思います。
新スタートレック(TNG)から長くトレッキーとして観続けている人にとっては、この二人の因縁の…というか奇妙な関係はよく心得ていることと思います。
その前提で話を進めます。
Qとピカードと作品への関わり
知っている人は読まなくてもわかるはずなので飛ばしてください。
TNGでのQは、宇宙進出を果たした人類に対して「宇宙に出る資格のない野蛮な種族」だとみなして審判を下す名目で登場して以降、人類の代表として選んだピカードにたびたび試練を与えます。
正しくは状況を引っかき回す道化的な存在「トリックスター」というのですが、トリックスターとしてスタートレックの世界に超越的な力で割り込み「世界観の新たな切り口」や「哲学性」を持ち込んできます。物語のレベルをジャンプさせるためにワイルドカード的な演出と捉えるべきでしょう。
神とも言い換えられる超高次な存在のQ連続体からすると、精神的な次元が低い人類が宇宙のあちこちに自由に散らばるのはリスクがあり、もうすこし進化させないとトラブルの種になりかねないと判断したのでしょう。
探求心があり進化の余地もあると見込んだピカードの精神的成長を通じて、人類にもそれを波及させようとしたのだと考えられます。
しかし、ピカード自身の努力で答えを悟らせなければいけないため直接的な言及をさけて試練を与える都合ほとんどが難解ななぞなぞのような内容で、時としてピカードを振りまわし散々な目に遭わせるトラブルメーカーのような存在です。
ピカードは試練を通じて学んでいることは理解していても、Qの尊大な態度と相まって強引な行為を迷惑行為と感じ彼を厄介者とみなしています。
最後の試練はTNG最終話でした。
ここではピカードに過去と未来の出来事を同時に体験させ、宇宙の空間亀裂に潜む大きな危機を前にどのように考え判断するかを試していました。
未来のピカードとして25年後の年老いた姿が描かれています。
隠居しシャトー・ピカード(仏語ではシャトー・ピカール)でワイン造りをしていることやイルモディック症候群に冒された様子がわかります。
時空を超えたそれぞれの時代のピカードの行動が正しい答えに到達し、この試練を乗り越えたことでQはおおむねピカードに満足して去って行きます。
Qは別れ際になにか言おうとしていましたが…
現実の「25年後」のピカードとシーズン2
まさに、TNG最終話でピカードが経験「させられた」ぐらいの未来が舞台です。
シャトー・ピカードでの隠居生活を卒業しイルモディック症候群も克服し、人生最後の仕事に向き合おうとしていた矢先のトラブル。その渦中にある混乱したピカードの前にQが再び現れます。
これがスタートレック:ピカード Season.2の話となるわけですが、このシーズンでは再びTNG最終話に似通った試練が与えられます。
時空を超えた体験
宇宙空間の亀裂という重大危機
正しい選択
ただ、今回は人類の進化とは関係のないQの個人的な目的のためにピカードの人生に干渉してきます。
そのあまりにも強引で破壊的な手法に、ピカードはQの異変を感じつつも「自分の人生や他人の命を弄ぶ本当に迷惑な奴」と受けとめてしまいます。
ピカードの混乱と憤りの裏で、Qは過去も未来も人の心の中すら見通すことができ、強大な力で森羅万象を変えてしまうことすら出来る存在だからこそ、ピカードの人生を蝕む苦しみやその末路や自分を嫌っていることなどすべてが見えています。
Qはピカードに長くつきまとっていたせいで彼の心の奥底まで知り尽くすことになり、それは同時に同情を抱かせるようになりました。
「課した試練にも耐え、こんなにも利他的に全宇宙のために人生を捧げた男がこんな孤独で報われない終わり方でいいのか? 馬鹿げている!」
それがQの本心でしょう。
人生と学びの物語は繰り返す
かつてQはピカードへの試練として、若気の至りで揉め事になり胸を突かれて人工心臓に頼る身体になった人生の分岐点まで巻き戻しやり直すチャンスを与えました。
これを通じて、例え失敗しデメリットを抱える選択だったとしても結果としていまの自分自身を形成する重要な判断だったことを悟らせました。
Qはそれで、ピカードが少年時代の「失敗」の結果に負ってしまった一生のトラウマとも折り合いがつけられるようになると期待していたのかも知れません。
でも、ピカードは90歳に至ってもずっとそのトラウマからは逃れられず、それをきっかけに誰かを心から愛することすら恐れるようになり、孤独な死を迎える状況になっていることにQは耐えられなくなったのでしょう。
孤独に消えゆくことのつらさを肌身に感じているQだからこそ「もう、こいつの人生を救うためだけに残された力/時間を使い果たそう」と無理をしたんだと考えられます。
すでに超越した力の枯渇が始まっていたQには立派な舞台装置を整えてやることができなかったから無茶な方法でもあの手段に打って出たのでしょう。
なぜジャン=リュック・ピカードは、宇宙でも名の知れた模範的人物となり得たのか。
飽くなき探求心や多様な存在を受け入れる心、利他的な行動がとれる勇気などを身に着けられた「起点」が人生最大の「失敗」と同根であり、そのつらく苦しい経験を二度としたくないさせたくないという想いこそがジャン=リュック・ピカードの人格を形成したのだ。
(もし順風満帆で大きな苦しみを経験しなかった人生なら、「ピカード将軍」のような傲慢で邪悪な人物になっていたかもしれないぞ、という教訓)
改めて、例え失敗しデメリットを抱える選択だったとしても結果としていまの自分自身を形成する重要な判断だったことを悟らせようとしたと考えられます。
結果として、遡った遠い昔(2024年)での体験を通じて、ピカードはようやく人生最大のトラウマと向き合い克服するに至ります。
Qはその瞬間のために壮大な仕掛けを必死に用意していたわけです。
副次的に銀河の危機を救う「きっかけ」をも用意していますが。
ピカードは救われたが…
シーズン2最終話の終盤。
Qとピカードの対話によって進められる、スタートレック史に残るであろう感動のシーンがあります。
2人の会話から、前向きになれたピカードの姿に「これなら自分のような寂しい最期を迎えず報われるだろう」とおおいに満足して喜んだQですが、それでも「自分はピカードからは疎まれている」と寂しさを感じていることがわかります。
具体的にはこの会話です。
―Q
私は…前進している…
死を迎えるのだよ
―Picard
わかっている
―Q
独りでな、そばには誰もいない…
君にはそうさせたくない
人間は、遠い昔の悲しみや痛みに囚われ動けずにいるものだ
翅をピンで留められた蝶のように…
私の友達は子供の頃に、合鍵を回してしまって
世界も自分の心も壊したが
もう、いい…
君は過去という足枷を解かれた
私が去れば…君は自由になる…
Qはピカードを友達だと思っているがピカードにとっての自分は邪魔者だと考えていて、自分がつきまとうことはピカードを束縛する、だから過去の苦しみと同時に自分とも訣別することで君は自由になってくれ。そういう心境を吐露しています。
そして、自分の思いを打ち明ける最大の見せ場に繋がります。
―Picard
だが…何の意味があってこんなことをした?
私を必要とする…何かが起こるのか?
―Q
銀河の一大事でなくてはいけないか?
宇宙の危機や天体の激変?
ひとりの命のためだっていい
何の意味があってだと?
私にはあるんだ
私には君が大事だ
神々にもお気に入りはいる
私には君なんだ
さて、この告白はどういう結果をもたらしたのでしょうか?
ピカード一行がQの最期の力を使って未来/元いた瞬間に転移する直前の会話で明らかになります。
―Q
さらばだ、モン・キャピテヌ(英語ではマイ・キャプテン)
去るときが来た
―Picard
独りではない
それが大事だったんだろう?
―Q
またどこかで
ようやくQの想いが通じたようです。
同時にQは孤独ではない最期を迎えることができたようです。
これでようやくQとピカードの物語も終わりを迎えることができたでしょうし、お互いが救われたと思います。
現実に30年来のつきあいであっても、相手の本心なんてわからないことが多いですよね。
想いを伝えない限り、知ってもらえないんです。
その想いをどこでどうやって伝えるかというのはありますが、後悔しないために「なんでも心に秘める」はやめたほうがいいんじゃないかと思います。
誰かに愛を告白する、感謝を告白するすべてにおいて。
また、大事な友達を想うというのは今日明日のことの手助けでなく、もっともっと深く長く考えたうえでの手助けだともいえます。
大切に想うならば、ときに相手にとってダメージを与えることになっても、遠回りな方法であっても、本当の先行きにある結果まで考えて手助けすることが重要だと感じました。