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清めと祓いの陰陽統合〜真菰と麻の関係とは?〜
こんにちは、こあらです🐨
私は愛知県瀬戸市で2025年から真菰(まこも)という植物を栽培するために農家に転身した、田舎暮らしの30代です。
みなさんは真菰という植物をご存知ですか?
真菰とはかつて日本中の河川や沼、湖といった水辺に群生していたイネ科の巨大な植物です。
成長すると真菰の葉は2mを越えます。
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縄文時代から日本に存在し、古事記や日本書紀といった歴史書にも登場する真菰ですが、古代からとある植物とセットで神事に使われてきました。
そのセットで使われた植物とはズバリ麻です。
農家として真菰と日々触れていく上で、麻についての歴史もしっかり学ぶべきだと思い、少し前から私は麻についての情報も収集するようになりました。
本日は真菰と対の存在と言われている麻について綴って参りたいと思います。
1. 日本は麻農家だらけだった!?
麻も真菰と同様に2m以上に成長する成育旺盛な植物で、病害中に強く育てやすいことやその用途の広さから、かつては国内に2万人以上の麻農家さんがいたと言われています。
麻の生地は通気性や調湿性が良く、紫外線のカット率も高く天然繊維の中では最も丈夫なため、広く庶民の間で普段着として活用されていました。
江戸時代中期頃には、麻繊維で作られた魚網が大量に使われていたそうです。
麻はその強度と用途の広さから、かつてはお米に次ぐ日本の基幹農作物でしたが、終戦後に大麻取締法ができたことにより麻栽培は許可制となり、現在では国内の麻農家さんは30名以下にまで激減してしまいました。
現在の法律では麻農家の許可申請は1年更新となっており、1度許可が降りた農家さんでも毎年更新の手続きに書類の提出や更新料の支払いが必要となっています。
栽培においても細かなルールがあり、人目につく場所での栽培の禁止や、侵入防止柵の設置の義務付けなど、様々な決まりがあるそうです。
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2. 大麻はどうして禁止された?
大麻といえば危険な植物だと1番に連想する方も多いと思います。
実際に、戦後の日本国内には向精神作用のあるテトラヒドロカンナビノール(THC)が含まれるインド由来の大麻が入ってきていました。
同じ「麻」の漢字が使われていてややこしいのですが、麻薬はケシの実から作るアヘンのことを指すので、大麻からできるものではありません。
麻には下記のとおり複数種類が存在します。
◆大麻(たいま)…ヘンプ
◆苧麻(ちょま)…ラミー
◆亜麻(あま)…リネン
このうち、許可なく栽培することを法律で禁止されているのは大麻のみです。
許可を得て栽培している麻農家さんは、大麻の茎と種子部分のみの活用を許されています。
葉や花は全て廃棄処分です。
現代では大麻=マリファナというイメージが強くついているものの、実際にはこの大麻の中にも品種の違いがあり、古代から日本に自生していた大麻の品種はTHCの含有量が極めて少なく、薬物には転用できないものでした。
ところが戦後に日本を統治したGHQは、大麻は品種を問わず全て人体に有害であるとし、1948年に大麻取締法を制定しました。
一説には、日本の武士道精神を育む「神道」における祭祀と麻が深く結びついていることに対する危機感から、神道に関する重要なものは潰してしまいたいというアメリカの思惑があったのではないかと言われています。
そう考えると、真菰が戦後の河川の護岸整備により急激に数が減り、現代人の大半が真菰の存在を知らないのもひょっとしたら…?と勘繰ってしまいたくなりますよね。
神道は、教祖や教典を持たない、日本独自の民族宗教です。
起源は古く、縄文時代から弥生時代、古墳時代にかけて原型が形成されたとされています。農耕文化の発展とともに、自然の力に神霊の存在を見出し、祭祀を通して豊作や安寧を祈るようになったことが始まりです。仏教や儒教、道教の影響も受けながら発展し、明治時代までは神仏習合が一般的でした。
神道の中心的な実践は祭祀であり、神社がその中心的な場所です。祭祀は、自然の恵みや祖先の霊を敬い、感謝する行為です。 お正月や七五三、結婚式、地鎮祭など、日常生活の様々な場面で神道の行事が行われています。
明確な教義や戒律はありません。自然への畏敬、万物の調和、祖先の尊重といった価値観が、長い歴史の中で自然発生的に形成された信仰体系を支えています。皇室とも歴史的に深い関わりがあり、宮中祭祀は国家の安寧を祈る重要な儀式です。
神道は、教典や教祖が存在しないため、宗教とみなさない見方もありますが、精神的な支えとなる指針や考え方を提供するという意味では、立派な宗教と言えるでしょう。 また、現代社会の問題解決に繋がる自然との調和や共生の精神も、神道の重要な側面です。
3. 神道における真菰と麻とは
古くからセットで神事に使われてきた真菰と麻ですが、真菰は陰で「清め」、麻は陽で「祓い」または真菰は「女性性」で麻は「男性性」であると言われています。
身近なところで探してみると、夏のお盆の時期にスーパーに並ぶお盆セットには、真菰のゴザと麻ガラ(おがら)が必ず入っています。
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お盆セットの真菰ゴザはお供えや精霊馬を置く敷物として使われるのですが、三重県の伊勢神宮や愛知県の熱田神宮などの全国各地の神社でも、真菰のゴザはお供え物の下に敷いたり包む用途で現代でも大切に使われています。
そしてそれらの神社では、重要な神事の際に麻で織られた麁服(あらたえ)という衣服に神職の方々が身を包み儀式を行います。
天皇陛下が即位後に一世一度だけ行う大嘗祭の祭祀においても、天皇陛下が麁服に身を包み、国民の安寧と五穀豊穣を祈ります。
また衣服だけでなく、麻の茎の表皮を取り除き靭皮部分を取り出して取れる精麻は、厄祓いなどのお祓いの儀式の際に神職の方が手に持つ道具に使われています。
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私の地元の神社でも厄祓いの際に精麻のついた祓い串を神職の方が「祓い給い清め給え〜」と祝詞を唱えながら振っていました。
みなさんもお祓いなどの儀式を受ける際はぜひ精麻が使われていないか探してみて下さい。
精麻は絹のように黄金色に輝くしなやかな繊維で、強度が高く独特な光沢があることから現代ではアクセサリーやしめ縄飾りにも使われています。
実は大相撲の横綱の綱にも精麻が大量に用いられてるいるのだとか。
横綱は古来より四股を踏んで大地を踏み固める現人神と考えられてきましたから、神の依代である精麻が綱に使われているのです。
伊勢神宮境内にあるせんぐう館に勤める学芸員さんのお話によりますと、伊勢神宮社殿の茅葺き屋根を縛っているのも麻紐なんだそうです。
見えない所でも麻はひっそりと活躍していたんですね!
4. 栃木生まれの新しい品種の誕生!
大麻の素材としての素晴らしさは魅力的だけど、それでも危ない成分があるんじゃないかと心配…という声に応えるべく、近年になって国内で新しく品種改良をされて生まれた品種があることをみなさんはご存知でしょうか?
栃木県鹿沼市やその近辺で生産されているトチギシロという名前の麻は、1934年に栃木県で開発された品種と1970年頃に九州地方で発見された品種をかけ合わせて80年代に誕生した新しい農業用品種で、向精神作用のあるTHCの含有量が産業用ヘンプと同等の0.2%です。
元々、国内本州に自生していた在来種の大麻はTHC含有量が0.08〜1.68%程度だったそうで、トチギシロはヨーロッパの産業用ヘンプの基準である0.3%以下になるように品種改良され生まれました。
トチギシロは現在のところは栃木県により厳重に管理されており、県外への譲渡はされていないようなのですが、こうした品種であれば今後国内で新規の麻農家さんが栽培しやすくなるかもしれませんね。
様々な制約の中で、それでも懸命に工夫して後世に麻の伝統を繋いできてくれた方々に感謝と敬意を表したいと思います。
みなさんも良かったら日常に潜む真菰と麻を探してみてください🌱
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最後までお読み頂きありがとうございました🌸
応援のほど、どうぞ宜しくお願い致します🙇🏻♀️