【詩】酩酊要らず
「わたしに触らないで」
雑居ビルの六階 呑処にて
もんどり打つように俯き ことばを放って
素面に返る
それからは、たった一言でさえ
思考が通わない
ようやく家路についたのだ
1年と半年 あるべき場所から遁走して
連れられるままに呑み歩いた、まちから
ようやくもとに戻ったんだ
素面のままでも酔えていた頃に
そうしてだれも
触らなくなった、わたしの部屋は
憂鬱と厭世でみたされて
だれの立ち入る隙もない
だれと寄り添う暇もない
これでよかったの?
これでよかったんだ
すべてがあるべきところに戻って
だれかと分かち合う酩酊、という幻想は
この視界から消え失せた
さわっても
形のわからないもの
わかることはないもの
それは水子の非可塑性
それは致命的なやわさ
それは、誰にもさわれない