【和訳】Constance - Spiritbox
"避けられないことが人生にはかならずあって"
" その事実に気づくのは難しい"
"否応なく、その瞬間は迫りくる"
It's hard to lose and wonder why
I have been waiting my whole life
For pressure in increments
Band: Spiritbox (2017-)
Song: Constance (2020)
Album: 1st Album "Eternal Blue" (2021)
Produce: Daniel Braunstein
Written: Mike Stringer, Bill Crook, Courtney LaPlante
& Daniel Braunstein
Video Director: Dylan Hryciuk (Versa Films)
Dying sun burns in the night
I watch it glow, it's so hard for me
Speaking darkness out of spite
Coercion and then caving in, wrap me in my bitterness
地平に沈みゆく太陽が、最期の輝きを放っている
たとえ強いられたとしても、暗い夜長のことを、
悪く云いたくはなかった
けれどわたしは苦しさにすっかり包まれて、屈してしまったんだ
Give it up, I'm complacent
Just enough to escape it
Heretics wouldn't faze me
これでいいよ、もういいんだ
逃げたって、誰も責めたりしないでしょう
Lucid trust, I don't want it
Palms are rough when you promise
Fire lies when you're honest
本当のことは言わないで
あなたが約束をするたび、両の掌はささくれていく
あなたが誠実であるほど、嘘の気持ちが暴かれていく
It's hard to lose and wonder why
You pressure in increments
Like a slow-moving coup
それはいつも傍にあって離れない
けれど私たちはそれに気づけない
圧し潰されるほどの重荷が
群れを作って、ゆっくりと増していくことに
Memories dissident
When I am holding you
あなたを抱き締めていると
あまたの記憶が、拒絶を始める
If my sun won't set tonight
I'll look around, but it's so hard for me
Like a shadow passing by
Crashing into shapes and then fading with my innocence
もしも太陽が沈まないのなら
わたしはあたりを見回すのだろう
でもそうはならなかった
影や形は暗闇と一体になって、何も見えなくなった
それからわたしは、自らの無垢さを失っていったんだ
Give it up, I'm complacent
Just enough to escape it
Heretics wouldn't faze me
これでいいよ、もういいんだ
逃げたって、誰も責めたりしないでしょう
Lucid trust, I don't want it
Palms are rough when you promise
Fire lies when you're honest
本当のことは言わないで
あなたが約束をするたび、両の掌はささくれていく
あなたが誠実であるほど、嘘の気持ちが暴かれていく
It's hard to lose and wonder why
I have been waiting my whole life
For pressure in increments
避けられないことが人生にはかならずあって
その事実に気づくのは難しい
否応なく、その瞬間は迫りくる
Like a slow-moving coup
徒党を成して、徐々に、けれど確実に
Memories dissident
When I am holding you
あなたを抱き締めていると
その事実がいっせいに襲いくる
曲名"Constance"の意味するところは、SpiritboxのリードボーカルであるCourtney LaPlanteと、Music VideoのディレクターであるDylan Hryciukの体験に基づいたものであるとインタビューによって言及されています。
歌詞については直接的な表現を避け、あくまで詩的で解釈の余地のある表現に留められていますが、Music Videoでは明示的に、老いた肉親が認知症に罹患する様を如実に描写しています。ビデオが進行するほどに主人公の女性からは、親しい人の人相、昔の記憶、家にあるモノについての認識、が欠落していき、その中で何よりも本人が耐えられない苦痛を味わう様が描かれていて、見ていてあまりに痛ましいビデオです。
アーティストのインタビューについて、冒頭、つづいて曲名について迫った内容、という順番で下記に示します。バンドのファンとしても面白いインタビューなので、内容が多いですが訳します。
この楽曲の翻訳にはかなりの時間をかけました。Spiritboxの歌詞は文法表現の正確さよりも重厚な単語を優先して持ってくるような印象を受けます。その翻訳は難航しました。
インタビューの言葉を参考にするならば、楽曲の歌詞にもいわゆるホラー要素として「正体不明さ、奇妙さ」を意図して演出しているのかもしれないな、と思いました。楽曲とビデオ、そして歌詞にも、ホラー的要素がちりばめられているのかもしれません。
ホラー作品であれば、考察の余地を許さない論理的破綻や説明不可な要素がどこかにあることが多いです。それ自体が、人を心底から恐怖させるための条件の一つ、「正体不明である」を満たすからです。人は理解できないものに対して恐怖を覚える生き物です。
そんな楽曲を、理屈を通した一つの物語として翻訳するのは野暮に過ぎるのかもしれません。しかし敢えて、筋が通るように訳したつもりです。
インタビューにて具体的に語られているとおり、これはただ消費される恐怖体験ではなく、生身の人間が体験した辛苦に基づいた物語なのだろうと思わせるものがいくつもあったからです。
以下、和訳のときに考えたことについて書き記します。長尺かつ個人的な記録になりますが、読む人にとって面白い部分もあるかもしれません。
第一バースと第二バース(いわゆる一番Aメロ、二番Aメロ)の歌詞です。ここは第一と第二において文章構成が似通っていて、文法的に韻を踏むようなものになっていると見ました。
なので文法を踏んでちゃんと訳そう、とすると、結構苦戦しました。イングリッシュネイティブでないからかもしれませんが、文の切れ目が判らないのです。歌詞の4拍で段落を区切れるようにも見えるのですが、どうも違う気がして、翻訳を書いては消して、文章の切れ目をああでもないこうでもないと見直して、を繰り返しました。
最終的に訳となった文章について、原文の文章構造を解釈した結果を書き記しますと、まず第一バースは3文に分かれます。
Dying sun burns in the night I watch it glow
it's so hard for me speaking darkness out of spite coercion
and then caving in, wrap me in my bitterness
夜に死にかけの太陽の輝きを見た
暗闇について悪口を言うのは(強いられてでも)難しい
けれど屈してしまって、苦みに包まれてしまった
第二バースも3文に分かれますが、it's so hard for meの"it"が指示する先が第一バースと違って前段の文章であるのがミソです。
If my sun won't set tonight I'll look around
but it's so hard for me Like a shadow passing by Crashing into shapes
and then fading with my innocence
もし私の太陽が沈まないならば、私は辺りを見渡すだろう
けれど形が衝突によって崩れて影がなくなってしまうように、私にとってそれ(辺りを見渡すこと)は難しかった
それから、私の純粋は消えていく
文章構造的な話はこの辺にして、個人的には第一・第二ともに非常に好きな歌詞です。どちらの歌詞も、インタビュー内容およびビデオにある、肉親の認知症との闘いを暗示しているように見えます。
第一バースは、認知症とそうなった肉親について悪く言うつもりはない(It's so hard for me speaking darkness out of spite coercion)のに、「認知症との長い戦いのせいで、自分の心が自分を裏切っていると感じる恐怖」によって、辛くなって屈しつい悪態をついてしまう(and then caving in, wrap me in my bitterness)という文脈に読み取れます。
愛したい肉親が、自分のことを忘れて傍若無人を振舞うように見える様は、また、その肉親自身がそのことに傷つく様は、介護する家族にとって耐え難い苦痛のはずです。何より辛いのは、その様を長い間ずっと見せつけられ、きっとこの人が亡くなるまでその状態は悪化を辿るのだろうと想像してしまったとき、肉親に対するおそろしい感情が、自分の中から湧き出ているのを感じ、それを抑え付ける日々だと思います。愛しているからこそ、愛していたいからこそ、相手が苦しみ、自分のことも苦しめて、それによって自分の中の愛したい気持ちがどんどん萎んでいきそうになるのを、必死に堪えたい、でも挫けて、堪えきれず、認知症になってしまった肉親を憎んだり、もう終わりにしたいと思ってしまうとき、そんな自分のことが本当に嫌になってしまう……そのような光景が詩的に表現されていると思いました。具体的な体験を描写するMusic Videoに対して、抽象的な心象描写である詩が、非常にいいエッセンスになっています。
第二バースは第一に引き続き、希望がなくなっていく様を太陽の沈みになぞらえており、もし太陽が沈まないならば辺りを見渡せるはずなのに(If my sun won't set tonight I'll look around)、太陽すなわち希望はすっかり沈んだようで周囲のことが見えなくなって(but it's so hard for me like a shadow passing by crashing into shapes)、そのことが自分の無垢な気持ち、純粋な気持ちを失わせていった(and then fading with my innocence)と綴られているように見えます。
これもまさに、純粋に相手を愛したい気持ちがどんどん萎んでなくなっていく様を、そして自分の中からそんな感情が消えていくことに対する恐怖や自責が、滔々と語られているような光景で、読んでいて苦しいながら、とても好きな部分です。
何より、難解に思える文章構造を、つまりどういうことだとかみ砕き続けて、ようやくこの訳に辿り着いたとき、認知症患者との体験に関する辛さのこと(知識でしか知らないけれど)が歌詞と結びついて、とても意味を伴った文章に見えて、その色づくような光景に、思わず叫んでしまいました。
あともう一か所だけ説明します。これはインタビューにも記載されておらず、アーティストの意図からは外れた稚拙な思い込みかもしれませんが、この翻訳のもう一つの核となる部分なので、僭越ながら記録させていただきます。
上記のラストコーラスの歌詞ですが、文章構造としては1文であるものの、It's hard toがかかる先を"lose"と"wonder why"の二つだとして訳しています。そしてItの対象を"I have been waiting my whole life for pressure in increments"としています。
つまり、
私の人生に待ち受けている、徐々に増えていく重圧(I have been waiting my whole life for pressure in increments)は、失うことも(lose)、疑問に思うことも(wonder why)、難しい(it's hard to)、
ということになります。
そして、失うことが難しい⇒避けることが難しい と言い換えて、もとの和訳に至ります。
第一コーラスで似た歌詞が出てくるので、そこでおおむね意味は訳せていると考え、ラストコーラスの訳では訳者である自分の考えを好き放題に詰め込みました。
これは曲名"Constance"に対する、インタビューとは異なるもう一つの解釈に繋がります。Constanceとは永続性・常時性と和訳される単語ですが、俺はこれを中国の易学でいう「不易」と捉えています。
不易とは、この世の中は移り変わる事ばかりで一定のものはない(=易)という考えを前提に、それでも時代や状況を超えて変わらないものがある(=不易)という思想です。
わかりやすく言ってしまえば、今いきている生物がいずれ死ぬことは、不老不死の妙薬でも開発されない限り、ほぼ絶対の不易、変わらない事実であると言えます。死ぬときは、傷を負うのか、病むのかはわかりませんが、人間も必ず死を迎えます。Courtney LaPlanteの祖母が2020年に亡くなってしまったように、誰しも死ぬことからは逃れられません。
さらに言うと、長く生きれば生きるほどに、老衰という結末は可能性として色濃くなっていきます。老衰の仕方は状況により様々ですが、Dylan Hryciukの祖母のように、認知症による老衰も訪れる可能性があります。どんな老衰も、その人の元気な姿を徐々に奪っていき、その様は、その人を愛する人を、その人を愛するが故に、どんどんと苦しめていきます。
ただでさえ苦痛と哀しみに満ちたこの曲に対して、さらに泥をかぶせるような、いささか仄暗い考え方だと自分でも思いますが、とにかく、生きているという事実がある以上、死からは逃れられませんし、長く生きているほどに、老衰による生前の人格の喪失の足音が迫ってきます。そういう、「人間や生物における必定の理=死、老衰」のことが、「亡くなった人との不滅の曲」「祖母の実名」という由来を持つ"Constance"という曲名を、さらに彩っている気がしてなりません。
人間が持つ根源的な恐怖は、老いること・病むこと・死ぬことの3つにあると語られ、この恐怖から起こる様々な災いにどう向き合っていくか、という問答の記録が、今日に伝わる仏教の起源となっています。
俺はこの楽曲"Constance"の持つ恐怖的な要素を、戒めとして、携えるべき訓示として、忘れないために持っていたいと思うのです。あらゆる人間に必ず訪れる終わりのこと。それがもたらす苦しさや哀しみのこと。そしてその苦しみは、単なる苦しみだけではなく、その人が生きていることを愛する人がいた証なのだと思います。人間は不滅ではないけれど、死に際して人が感じた辛苦を忘れてはならないし、その背後にあった愛情についてはもっと忘れてはいけなくて、そんな愛に基づいた苦しみを歌った曲が、それを聞いた人間の苦しみに寄り添う様は、不滅であってほしいと思うのです。