長い空白からの再訪
はるか幼少時代に遡る旅の記憶
山に囲まれた小さな田舎町まで
いつも母と兄と3人で出かけた
手入れが行き届いた古い家屋
囲炉裏と掘り炬燵がある居間
チャリンと風鈴が揺れる縁側
おじさん、おばさん、男の子たち
おばあちゃんもみんな優しい
きしむ廊下を抜けた奥の部屋には
黒い額縁の写真が置かれていた
誰だろう?
私はそれがどうしても気になって
こっそり何度も見に行った
写真の中でほほえむ男のひとが
兄によく似ていたから
やがて弟が生まれ
両親揃って訪れたのが最後になった
「あそこには、もう行かないの?」
たった一言を口に出せず
覚えていないかのごとく振る舞った
何かが壊れる気がして
再び同じ地へ足を踏み入れたとき
20年以上の月日が経っていた
母と兄の3人だった
ずっと会いに来れなくてごめんね
私、結婚するんだ
墓石の前で静かに手を合わせ呟く
「あなたが選んだひと
亡くなったお父さんに少し似てるの」
秘密ね、と母は
どこか嬉しそうに寂しそうに笑った
最後まで読んでいただいてありがとうございます。これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。