しゃべりまくる義母と過ごした休日
復活祭の休暇で久しぶりに夫の母が遊びに来た。ほんの数日のことだったが、うむむむむぷっふぁぁ~、あ~疲れた。
普段はこちらから行くことばかりなので、おもてなしをする側に立つのは本当に久しぶりのことだった。もうマジでクッタクタで、義母が帰った翌日の午後には寝込んでしまうほどだった。
でも、かと言って義母との関係は悪くない。俗に言う嫁姑問題もない。
時々意見が合わないな、と思うことはあるけど、わざわざ指摘して言うほどのことはないし、意地悪をしたりされたりすることもない(多分)。
そして義母の方も同じように感じているんじゃないかと思う。
この子はフランス人じゃないから考え方が違って当然だわ、くらいの感覚で聞き流してくれているところがあるような気がする。
〇〇〇
じゃあなぜそんなに疲れてしまったのか。
もちろん普段しない気遣いをしたせいもあるけど、それよりも何よりも、義母のパワーが人並外れているからだ。
とにかく彼女は頭の回転が速く、思いのままにチャッチャと動き回る。動いていないと死んでしまうのではないかと疑うほど、ずっと動いている。それが要領よく動いているのかと問われると、私の目にはそうは映らない。
思いのままに動いているから、右へ3歩進んだと思ったら急に5歩引き返したり。また進んだかと思えば斜め後ろに目をやって何かを見つけてキャッキャと喜んだりする。
せわしない、という言葉がピッタリ当てはまるタイプの人だ。
小柄でちょこちょこと動き回り、ニコニコしながらずっとしゃべっている。どちらかというと愛されキャラでかわいらしい人だ、が、せわしない。
〇〇〇
その日はアンティーブのマルシェの近くでランチをして、海沿いドライブを楽しんでから午後はカンヌでお茶をしよう、と予定を立てていた。
だが祝日ということで、直前にネットで調べたら行こうと思っていたレストランが閉まっていると判明。あわててプランを練り直し、浜辺の方へ行くことにした。
ところが普段行かない場所なだけに途中で道に迷ってしまい、渋滞に巻き込まれてしまう羽目に。どうしたもんかと車中で考えあぐねていると、じゃあもうカンヌまで行っちゃおう!と彼女が言い出した。
いやいや、まだ昼前!!今から最終目的地に行って、その後どうすんの!?
私なら、道に迷ったら一旦止まって状況を確認してからプランを練り直す。でも彼女は迷った状態のまま、途中部分をすっ飛ばして最終目的地の方向へ突っ走ろう!と考えるのだ。
車に乗っているとはいえ、迷って右折左折を繰り返していると同乗者だって疲れる。疲労で思考能力が低下し、母親の意見に流されそうになっている夫に、とりあえず止まろう、そう言って車を止めてもらった。
落ち着いてもう一度調べてみると、最初に計画していたマルシェ近くのレストランが特別営業で開いていることが分かった。だったら旧市街地近くの駐車場に止めればいい。
ゆっくりと食事をしてゆっくりと散策をして、海沿いをドライブしながらカンヌへ着いたのはちょうどいい時刻の夕方。
あの時あのまま停車せずにアンティーブをすっ飛ばかして昼に到着していたら、ランチやその後の予定をどうするかでワチャワチャとせわしなく動き回ることになっていただろう。
おかげで無駄に動き回ることなく、ホテル・マルティネーズのラウンジカフェでお茶をしながら優雅な時を過ごすことが出来た。
〇〇〇
車中でもレストランでもカフェでも、散策中ももちろん、とにかくたくさん話をした。というか、ほとんど義母がしゃべりまくっていたので私は彼女の話に相槌を打ちながら耳を傾けていた。
彼女は15年ほど前に夫を亡くしている。そして10年ほど前からベルギー人の彼氏と付き合っている。
今回はその彼氏が病気をしたり歳を重ねたことで出不精になり、全然一緒に出掛けてくれなくなったことに対する愚痴が多かった。
15年前に亡くなった夫と今の彼を比べてブツブツと文句を言っている。
夫は病気で手術を繰り返していた時でさえ一緒に出掛けてくれた。なのに彼は、疲れたしんどい、と言って家に引きこもっている。のだそうだ。
夫と彼氏は違う人間なんだから比べちゃ駄目よ、と言いたい!言いたい!ウズウズする!言いたい!だがそれはご法度。
久しぶりに会う義母には楽しい時を過ごしてもらわねば。それがおもてなし。カップル間のプライベートなもめごとに口を挟んだり横槍を入れるのはマナー違反だ。
他にはAIやネット社会の進化についても熱く語っていた。人の温もりが感じられない出会いなんて信用できない!今の若い子たちは健全な出会いをしていない!と熱弁が繰り広げられる。
だが私は知っている。彼女がベルギー人の彼氏と出会ったのは出会い系サイトだったということを。夜な夜なパソコンの前でポチポチと、殿方たちのプロフィールを読み漁っていたことを。
ああ!言いたい!言いたい!
いや、だって、あなただって出会い系サイトですよね?って言いたい!ウズウズする!あぁ言いたい!でもそれもご法度。
70越えのご婦人に、あなたも出会い系でしょ?なんて言ってしまうのはイカンのだよ。マナー違反。全く以てエレガントじゃない。
そんな私のウズウズとした気持ちをよそに、義母は水を得た魚のように生き生きと持論を語り続ける。ネットでの出会いは危ないから気をつけないと駄目なのよ、と。若い孫たちにも口酸っぱくそう言って回っているのだそうだ。
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もちろん愚痴ばかりじゃなくて、楽しいことや家族の近況もたくさん話してくれた。キャッキャと新しく発見をしたものを見せてくれたり自慢のレシピを教えてくれたり。
結局彼女だけじゃなく、私も普段に比べたらよくしゃべったと思う。
ねえねえどう思う?なんて聞かれたら答えるし、相槌だって、うんうん、だけじゃ5分と持たない。ちゃんと掛け合いの会話が成立するように私からも話さなければならない。エンジンがかかり過ぎてループに陥り、話が止まらなくなった時には口を挟んで無理やり話題を変えることも必要だ。
多分普段の倍以上、しゃべったんじゃないかな。ここ数日で。
どうりで疲れる訳だ。ふぅ~。
〇〇〇
義母とは仲良くやっている。2人で買い物したりすることもあるし、ご飯に行くこともある。1日の内のたった数時間なら、こんなせわしない彼女と過ごすのも、アトラクション的な面白さがあって楽しい。
だか今回は数日間ぶっ続けだった。だから寝込むほど疲れたのだ。
姑との関係は、親しき仲にも礼儀あり、さえ頭の隅っこに入れておけば互いに嫌な思いをすることはない。離れて暮らしていてたまにしか会わないからそういう関係でいられるのだと思う。
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