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さぶっ

さぶっ。

シアーカーテンが大きく丸みを帯びた状態でゆらゆらと窓際で踊っている。開けっぱなしの窓から冷えた風が吹き込んだのだ。

遠くの空からゆっくりと灰色の雲が迫り来るのが見えた。

午後7時。夏中ならまだギラギラと太陽が照りつける時間だが、今はゆっくりと光が陰る。


人間用のソファーで優雅にくつろぐ犬が天井へ鼻を突き出して風の匂いを嗅いでいる。この小さな四つ足の同居人(犬)を愛おしいなぁと思いながら眺めていたら、急に目が合った。私の熱い視線にビビッときたのだろう。

「なんですのん?」とでも言いたげな表情をしている。

「お散歩行く?」そう話しかけると、「行く」の言葉に反応して両耳がピクリと動いた。

よっこらしょっと身体中の関節や筋肉をストレッチしながら立ち上がり、床に降りてちょこんと行儀良くお座りをしてこちらをじっと見つめる。

部屋着の短パンを素早く履き替えて戻ってくると、同じ場所でお座りをしたまま大きな口を開けてあくびをしていた。

「待たせてごめん。ほな行きましょか」そう声をかけてハーネスを装着し、リードと散歩カバンを持って部屋の外へ出る。

午前中の散歩だとタッタカ颯爽と階段を降りて出かけるのだが、一日中まったりとくつろいだ後では階段を使う気分にならないらしい。エレベーターの扉をじっと見上げて動こうとしない。

じっと見つめていれば何でも思い通りになることをウチの犬は知っている。

ご飯が食べたいときは餌場をじっと見つめるし、一緒に遊びたいときはおもちゃと人間を交互に見つめる。

根気よくじっと餌場を見つめているとご飯が運ばれてくるし、人間はおもちゃを放り投げて「取ってこい」の遊びをしてくれる。人間の目を見つめるときは、尻尾を元気よく振るのがより効果的だということもちゃんと知っている。

だから階段を降りるのが億劫でエレベーターに乗りたければエレベーターの扉を見つめればいい。そうすれば簡単に楽して階下へ行ける。

まんまと犬の思惑にはまってエレベーターを使って外へ出ると、ブルっと軽く身震いするほど空気が冷えていた。

長ズボンに履き替えたとはいえ、Tシャツ一枚では寒いと感じる気温になっていたのだ。


今週は北極からの寒気がフランスまで降りてくるから一気に寒くなる、と気象予報士のおじさんがテレビで説明していた。

夏の暖かい空気を押し除けるように寒気が入ったせいで気圧の配置が変わり、今週前半には大雨が降ったのだ。

昨夜も8時ごろからポツポツと降り始め、夜半過ぎには雨音で目が覚めるほど強く降っていた。空のあちこちでゴロゴロ音がするのは不安定な低気圧がどっしりと頭上に覆い被さっているからだろう。

犬が不安げにクィンと鼻を鳴らしてベッドの脇に寄ってきたが、「ゴロゴロ怖いね」「ゴロゴロ大丈夫よ」と声をかけることしかできない。

怖いものは怖いのだ。怖い原因を取り除かなければ怖さは無くならない。

前方から大きな犬がやってきたら道を避ける。子供がボールを蹴って遊ぶ音にビビったら、子供がいない方へ行く。でも空のゴロゴロは私にはどうすることもできない。


本日朝方はまだ捌けきれない雲が残っていた。それが9時過ぎにはキレイに晴れて清々しい一日となった。用心して昨日よりも厚手のTシャツを着て午前の散歩に出かけたが、風は冷たく日陰は寒い。

なのに日陰のないプロムナードまで出て太陽の下を5分と歩かないうちにじんわりと汗をかいてきた。暑っ。

寒かったり暑かったり、こんな天気の時はどんな格好をすればいいのだろうか。

とりあえずいつもの癖で持って出た水筒に入れた氷水を飲んで暑さを凌ぐ。

グイグイっと旧市街地の山の方まで一目散に歩きたそうな犬を上手く操り、いい頃合いで方向転換をして引き返して帰ってきたが、それでも1時間以上は歩いた。

犬はなんだかまだ歩き足りなそうな顔をしているが、明日から子犬を連れた心配性の知り合いが来る予定なので、(私の)体力を温存せねばならぬのだ。

週末にいっぱい歩こうね。

涼し〜
冬やん

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