サバイバルモードについて誤解を受けた話
サバイバルモード・・・交感神経が活発化、全神経を動員し、逃げるか戦うかの準備の為、身構えている緊張状態。
物心つく頃からトラウマケアが始まるまでずっと、記憶の中の私は、ほぼ常にこの状態だった。原因はもちろん、幼い時分より家族から受け続けた虐待だが、その危機が去ってからも、この状態がデフォルトとして、固定されていたように思う。当然ながら、ただ生きるだけで、常にとても疲れていた。
今年に入ってから、あるNPO団体から、オンラインでインタビューを受けた。希死念慮や、抱える心の問題について、体験を共有するという目的だった。3対1だった。
精神症状について話していく中で、サバイバルモードについて、1人の方が質問された。
「『サバイバルモード』によって、キャリアが積み上げられていたなら、それが無くなるのは惜しくないですか?」
複雑な気持ちになった。明らかに、誤解がある。イメージとして、何かスーパーマン的なものを思い描いているのかな、と思った。元々備わった能力以上のものが発揮できるような。もしくは、アスペルガーの方が、ある分野において突出した才能を発揮するイメージだろうか。
説明し、頷いていらしたが、理解された様子では無かった。
実際のところ、私の精神症状が、仕事に役立ったとは全く思わない。むしろ逆で、もしもこんな症状が無ければ、もっと能力を活かせたとさえ思っている。
交感神経の活発化により、集中してタスクをこなせる事もあったかもしれないが、脳がガチガチに締め付けられる。自由な発想が出来ない。そして、不意にショートし、意識が飛ぶ。その後は、ぐったり疲れ果て、気を失うようになったり、気付くと何もしないまま何時間も経っていたりした。
唯一役に立ったと思うのは、海外で生活をしていた頃、サバイバルモードな過覚醒により(他者の動きや顔つき等の)微妙な異変に気付き、危険を回避出来た事くらいか。要は、ジャングルを彷徨う被捕食動物のスキルで、法の下の人間社会、特に日本においては、左程必要ではない。必要ではないどころか、障害になる。
治療がすすみ実感するのは、仕事や生活において、普通の状態の方が効率が良い、ということ。今の方が、より巧く出来る。脳が硬直していない分、アイデアもたくさん出てくる。
私個人の結論……サバイバルモードは、日常生活においては、脳の使い方が偏っただけの、非効率的なCPUの浪費。
面白いのは、トラウマ治療が進むにつれ、明らかに脳が弛緩していくのを感じる。俗に言うリラックスしている状態に近づいているのだろうか。人前で、こういう状態だった事は、かつて無かったと思う。まだ慣れないけれど、気に入っている。
後から思い返し、その質問をした女性は、追い詰められた思考に縁がない方なのだろうと想像し、羨ましくなった。常に危険を回避する事だけに集中する脳なんて、誰も持たなくていい世界になればいい、と思う。