月のマリオネット
(続・鏡のピエタ)
◆◆◆
――手に足に巻きついたそれは、じわじわと僕を動けなくし、海の底へと導いていった。
なぜ生まれてきたのだろう。
意識の溶け出す間、僕は考えていた。
父親のこと、
母親のこと、
暗い僕の家のこと。
僕は最初、慎ましい幸せだけで十分だった。
仲が悪くても、
基本的には不機嫌でも時々優しい父がいて、
少し無理をしても母が褒めてくれるなら。
なかなか欲しいものは与えられないのに、
「欲しいものは与えないと与えられない」と誰かが言うから、与え続けてきたのに、いつしかそれは僕を絡めとる。
少しずつそれは重みを増し、息継ぎができにくくなり、日の光を見つめることを難しくさせた。
声をあげるのを止めた。
この話をしても、きっと分かってもらえない。
不満を口に出す以上に皆幸せに生きていて、そのまろやかな幸せに僕が風穴を開けるようなことは許されないように思われた。
僕さえ、
僕さえ飲み込んでいればいい。
◇◇◇
ぼくはありえもしない君の一生のおしまいを考える。
想い巡らせずにはいられない、ぼくが君だったかもしれないから。
ぼくは君の上に、鏡の中、君の姿にどうしてもぼくを重ねてしまう。
その恐怖から、鏡は鈍い音を立てて傷つき、気づけばひび割れていく。
死んだのはいっそ、ぼくだったら良かったのに、と。
◆◆◆
その糸は柔らかな介助から重く固い鎖へと変質した。拘束された僕は貴女の言うなりにしか体を動かすことができない。
僕はいつまでこうしていればいい?
いつになったらこの鎖をほどいてもらえる?
夢の中で泳ぐ。沖へ、沖へ。
どこまで泳いだだろうか。
どこへ行けば、月の引力は追いかけてこない?
波が引いていく。僕を置いて。
もう僕は岸へ戻れないのか……。
一つだけ僕が君に言えること、
言えることがあるのだとしたら、
僕は途中で目を閉じてしまったけど、君はまだよく目を開いて辺りを見回した方がいい。
内側を見つめることに疲れたなら遠くに目を移して見るのもいい。
つまりは光をあきらめない方がいい。
断ち切らなくてもいい。外に求めて緩められるのならそれでよかったんだ。
鎖の鍵を彼女は持たない。
結局、その鍵は、自分自身の中で精製し、作り出さなければならないものだった。
笑えるだろ?鍵は外側からかけられたと思っていたのに、内鍵だった、だなんて。
そう、この鎖は僕が勝手に、僕の思念が作り出したものだったんだよ。
僕が鎖にしていた。
君に僕の声が聞こえるか?
ねえ聞こえるか。
君だけには分かっていて欲しいから。
◇◇◇
これは誰の記憶、彼?それともぼく?
混濁する。混じり合い、一筋の涙として流れる。
君の死はまだ鮮やかに、まだ生温かく、ぼくに語る。
***
最後に
本作および詩『鏡のピエタ』、これらは誰かを責めようとか傷つけようと思って書いた文章ではない。言うなればさまざまな考え事の中にふつふつと湧き上がり、それが形を変えたもの。感じ方は様々だけど、それだけは断っておきたい。