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「銀河鉄道の夜」宮沢賢治

 八月の猛暑日の昼間に歩いて五分ちょっとの本屋まで行って、汗だくだくのまま見つけて買った本。本当は、詩をたくさん読んでみたくて宮沢賢治の詩集を買いに行ったのに、本のカバーデザインが激似の銀河鉄道の夜を手に取ってセルフレジしてしまった。それで店を出た時にすぐ気付いたけれども、店までの道中に聴いていた銀杏BOYZの「銀河鉄道の夜」の影響もあって、これも改めて読みたくなってしまい、結局そのまま持ち帰ることに。こちらも詩的な文章がたくさん出てきたので、結果的によかったということとした。

 言い回しとか言葉の意味がすんなり理解できない部分もたくさんあって、時々読み進めようとするのに少しの決意が必要な時もあったけれど、無事最後まで読み終えられた。

印象に残った章

よだかの星
シグナルとシグナレス
猫の事務所
銀河鉄道の夜
ビジテリアン大祭

 読後にやり切れなさが残る作品が多い中で、シグナルとシグナレスだけは安らかな気持ちでいられたから良かった。銀河鉄道の夜もそうだけど、森羅万象の本質を問うテーマなのだからこそ、心に残る台詞からは、蝋燭に手をかざしたような肌実感のある温かさを感じられると思った。

 よだかの星では空の描写がとても良かったから、より一層やるせなさを感じたのかもしれない。(一部ネタバレ有り)
 見た目が醜く名前も取られてしまった鷹のよだかが、苦しみの末に願っていた通りに星になれた、という話だが、それは本人としては星になれて良かっただろうけれど、全体像を知るこちらからすると、切なくて仕方がなかった。
「もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。よだかはそらへ飛びあがりました。今夜も山やけの火はまっかです。よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。」
 この文章の後、話は一気に畳み掛けて、よだかが星々に助けを乞う場面になるが、日没の光景をまるで肌で感じられるように書かれていることに、空を飛ぶよだかの感覚を味わうような気になった。

 銀河鉄道の夜は、有名な台詞だと思うが主人公のジョバンニが聞いた慰めの言葉は、大切に心に留めておきたいものだった。
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」

 それから、ベジタリアンについて徹底的に討論する、ビジテリアン大祭は、この時代からこのテーマってあったんだと驚いた。個人的に動物園好きなところから、動物園のブログなどで見かける絶滅危惧種のレッドリストや、絶滅に関すること、人類が多くの種を消滅させている、ということなどを知る機会があったので、今の言葉でいうヴィーガンになったら、そういう自然の生命の循環を保護することに協力できるのかなぁ、などと考えていたので興味があった。何をもってベジタリアンを良しとするか、同情するなら植物だってバクテリアだって同じ命ではないかとか、人間には混食の証に犬歯があるではないかとか、キリスト教では肉食も神に創られた自然の摂理なのだとか、反対派から多角的に論ぜられるのが読み応えがある。単純に可哀想っていうだけの話じゃないんだなぁと思い知らされた。

 全体的に一回読むだけじゃ理解できない部分もあったので、いつか先の老後の楽しみにまた読み返せればいいと思う。

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