【映画鑑賞】『PERFECT DAYS』#6 (続)素人でも楽しめる映像美

昨日からの続きです。
(約1300字)


平山が自転車で何度か通る橋。Xでの映画公式アカウントでは、銭湯帰りに姪のニコと一緒に通るのは桜橋、と紹介されている。

橋そのものが機能美を備え、幾何学模様を有している。
日本中に有名建築家が設計した橋がいくつもある。古い物では、およそ350年前に初代落成した山口県の錦帯橋が優美な造形を今も見せている。海外に目を移せば、約450年前からあるパリのポンヌフ橋、ローマ帝国時代に造られた巨大な水道橋もすばらしい。

この映画では、橋の上を自転車で進む平山を横から映すカメラワークがあったと思う。その速度や角度の影響をうけながら、橋の欄干や地面の線形が動き、静止画ではわからない別の美しさを見せていた。橋と人とのコラボレーションだ。
人の動きをともなう橋って、こんなに綺麗なんだと初めて気づかされた。

モノクロームの夢、または想念

一日の終わりに平山は布団に寝ころび、古書店で買った文庫本を読み、やがて眠気に襲われ、枕元のスタンドライトをオフにして眠りにつく。

そのあと映像がモノクロームに変わり、昼間に見た景色や人がぼんやりと、ときに渦巻きのような動きもして、代わる代わる浮かび上がる。人は睡眠中にその日の出来事を脳の中で整理すると聞いたことがあるので、これは睡眠中に見る夢か、脳内で勝手に生成される映像だろうなと察した。#1で書いた、映画公式サイトでテキストが揺れたりばらけたりするのと似た雰囲気がある。

他人の脳内を覗いているような奇妙な体験のできる、幻想的なシーンだった。

夜の川辺

映画の終盤で、平山は自転車で夜の川辺にたどり着く。心は乱れている。鋼色に輝く川面をながめつつ、買ってきた缶ビールらしきものを飲む。そこで映される水面には、地上のあちらこちらで光を放つ色彩が溶け込んで揺れている。元の形を失い、不規則に動いたり1本だけ長く伸びたりする。

その後やってきたもうひとりの男も缶ビールらしきものを飲む。自分の命がもう長くないことを、さっき見かけて知ったばかりの平山に打ち明ける。その奥でにじむ色彩。光源は元の形を失い、やさしい光り玉になって人物に寄り添う。

このような夜景のシーンは、きっとどこかで何かの映像で見たことがあり、1980年以前のようななつかしさを覚えた。
それにしても、いい。なつかしさを呼び起こす光景を、海外の監督が撮ったというのもいい。国や人種の違いをとっぱらったところで共感できるポイントが、ホモ・サピエンスの遺伝子に組み込まれているのだろうか。はたまた、何かの日本映画へのオマージュだろうか。

言葉で慰めようがない男の告白を、夜の川景色がやさしく包んだ。
言葉のいらない映像の強みをここでも感じた。

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noteだけでもこの映画の感想や分析が多数あげられているので、早く読みたいのですが、先に読むと自分が何を思っていたかわからなくなるので、あと何回か書きます。
全部書く→公式サイトを全部見る→他の人の感想を読む→雑誌など他の媒体を読む→もう一度映画館で観る→もう一度書く
が出来たら最高です。



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