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【映画鑑賞】『PERFECT DAYS』#7 村上春樹作品の気配

(約1600字)
 3月に入り、まだまだ先と思っていた2024年米アカデミー賞授賞式の日が迫ってきた。そのまえに、この映画の長すぎる感想シリーズを早く書きあげねば。

 #1では、この映画のなかに翻訳家柴田元幸さんの気配を感じたと書いたのだが、村上春樹作品の気配も感じていた。


 最初にお断りしておこう。わたしはかつて、村上春樹の書く作品や、作品についての評論を熱心に読むファンだったが、今はそうでもない。よく考えたらけっこうファン歴は短かった。そのため、ここでいう「村上春樹作品」は、講談社『村上春樹全作品1979~1989』収録のものに限る。具体的には、『風の歌を聴け』から『ダンス・ダンス・ダンス』までと、その間に刊行されていた短編小説を指すことになる。

主人公は「ひとり上手」 

 そのうえで、村上春樹作品の気配とは。
 たとえば、主人公の「ひとり上手」。
 村上春樹の(上記のとおり初期の)各小説に出てくる主人公は、だいたいこんな資質をそなえていた。
・一人で過ごす時間がながい。ひとりで行動しがち
・友達は少なめ
・仕事はフリーランスか、会社員であってもきわめてドライな勤務態度であり、社畜ではない
・社会と一定の距離をおく

 孤独というと寂しさがつきまとうので、そうではなく「ひとり上手」「おひとりさま上手」と呼んでおこう。
 この点は、映画の主人公平山に共通するように思う。
 ただし、村上作品の主人公には、やや不愛想で無表情で社会に批判的なニヒルな雰囲気を感じてしまうが、平山は無口でも、時に屈託のない笑顔を見せる。人に対する警戒感は特にみられなかった。クローズしていない。年下の同僚は、誰かに紹介するときに、無口だけど良い人だと言っていた。

音楽 

 次に音楽。#1でも触れたように、映画では主に60年代の洋楽が使われているが、初期村上春樹作品も然り。ビートルズ、ボブ・ディラン、ビーチ・ボーイズ、ローリング・ストーンズはもとより、そこまでビッグネームでなくても有名なバンドやシンガーの曲が次々と出てくる。
 実際、少し下の世代のわたしは『ノルウェイの森』で多数のビートルズの曲に出会い、当時、家にあった親のレコードからカセットテープにダビングして「直子のためのレクイエム集」を作った。今でもとても良い選曲だと思う。

 #1で翻訳家柴田元幸先生が選びそうな音楽、と書いたが、柴田先生と村上春樹氏は翻訳などの仕事でいくつも共著があり、年齢も近い。音楽の趣味も似ている。今年1月29日のわたしのnote記事に書いたように、村上RADIOというラジオ番組に柴田先生がゲスト出演して60年代頃の洋楽を語っておられた。その時のおふたりはまるで学生時代の親友のように思えた。

余談になるが『村上春樹ブック』は素晴らしい

 ところで、ファンだった当時の1991年、このムック本が出て歓喜した。今は絶版なのか、Amaxxxやメ○○リでは3000円前後の値が付いている。

1991年「文學界」4月臨時増刊『村上春樹ブック』

 このなかに、作品中に出てきた曲をわかりやすくリストアップしてくれたページがあった。まるで研究者のようだ。一般の個人ではなかなかそこまでの時間と根気を得られないのでとても助かる。

 余談だが、裏表紙内側(出版印刷業界でいう「表3」)には、なんと、あのバブルで破綻した山一證券の広告があったので一部掲載させていただく。田中美佐子さんがお美しい。
 同社の破綻とあの有名な記者会見は1997年だったらしい。

 ほかにもこの本には、村上作品に関連するアメリカ作家やイラストレーターの紹介、ギリシャ居住時の写真、作品の評論、などあってまさにお宝。読んでいなかったページもあるので、ちゃんと読もう。『PERFECT DAYS』との共通点がさらに見つかるかもしれない。

 長くなったので次に続く。


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