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【カレリア料理】カリッタとカレリア・パイのお話

カリッタとカレリア・パイに関する、ちょっと長い小話

フィンランドに留学していた時、よくカレリア・パイ(Karjalanpiirakka)を食べていました。最初はパン屋さんやスーパーで購入していましたが、後に自分で焼くようになりました。今、日本でも時々作っています。

フィンランド好きな方ならおそらく誰もが知っているカレリア・パイ。今ではインターネットで検索すると、日本語レシピも多くヒットします。日本のおにぎりのような存在だ、と紹介されることもありますね。フィンランド人が好きなカレリア・パイ。私も大好きカレリア・パイ。

が、ちょっと待ってください。
「カレリア・パイ」ですよ?正確に訳すと「カレリアのパイ」。つまりこの名称は、カレリアの料理を外側から見た呼び方なんです。日本で中国の「包子」を「中華まん」と呼んでいるようなものです。

ではカレリアでは何と呼んでいるのでしょうか?

カレリア語ではこの料理を カリッタ(kalitta)と呼んでいます(地域によっては シライニエック(širainiekku)と呼ぶこともあります(お祝いの日の食事というような意味合い…と思われる)。 ロシア語ではカリートカ(калитка))。

カリッタという語は、ロシア語の калита(カリター;革の巾着袋)に由来すると言われています。巾着袋の紐をしめた時、ひだ状になる見た目を想像して頂ければ、カリッタおよびカレリア・パイの、あの形状(タイトル画像参照)が連想されるのは頷けますね。

さて、カレリアに伝わる「カリッタ」と、フィンランドで食されている「カレリア・パイ」、見た目はそっくりですが、用いられる材料は若干異なっています。

カレリアでは昔から、各家庭でこのような言葉が伝えられてきました。

"Kalittoa kyzyy kaheksoa"
"カリッタが求めるのは8つのもの"

つまり、カリッタに必要な材料は8種、ということです。
8種の材料の内訳は、家庭や地域によって異なる場合もありますが概ね以下のとおり:

【カリッタの材料】
ライ麦粉
ヴィ―リもしくはケフィア
サワークリーム
バター



詰め物

生地の粉はライ麦粉のみが基本です。
また、生地には水以外に乳製品も入れるため、表面はカリッ、中はしっとり、という印象です。
詰め物は、完成された状態で1つの材料と見なしています。もっとも伝統的な詰め物は大麦やオーツ麦の粥ですが、フィンランドのカレリア・パイと同様にお米のミルク粥マッシュポテト、子どもたちのおやつ用にはベリーやリンゴにお砂糖をまぶしたものも好まれています。

それに対してフィンランドのカレリア・パイの材料は、というと。

【カレリア・パイの材料】
ライ麦粉
小麦粉


バター
詰め物

ややシンプルですね。
粉は2種をブレンドしたものが一般的です。また、カリッタのように生地に乳製品は入れず、基本的には水のみでこね合わせます。そのため内側含めてカリッとした印象です。

詰め物は何といってもお米のミルク粥が一般的。その他にじゃがいも、カブ、にんじんをマッシュしたものも店頭でよく見かけます。

成型方法でよく知られているのは楕円型にひだを寄せたタイトル画像のようなあの形、ですね。円形に伸ばした生地の端をつまんで、星形のようにしたものもよく作られます。

成型の他、調理(加熱)方法のバリエーションも豊富(オーブンで焼く、フライパンで焼く、揚げる等)で、成型×調理方法によっては呼び名も変わってきます。その辺りの話はまた別の機会に。

ちなみにフィンランドのカレリア・パイは、2003年よりEUの伝統的特産品保護(TSG)の対象に認定されました。TSGはいわば商標的な一面ももっており、”karjalanpiirakka” という名称で販売される品は、TSGで承認された材料(分量)、調理法、成型法を守らなければなりません。

TSGに承認された karjalanpiirakka の定義(抜粋):

"Karjalanpiirakka とはオープン状の、小さくて浅い円形のパイであり、薄い生地の皮と、中央の詰め物で構成される。皮の生地は水、ライ麦粉、小麦粉、塩から作られる。詰め物は一般的には大麦、あるいはお米を茹でたものか、マッシュポテトである。それらに代わり、茹でて細かくした野菜(例えばルタバガ(スウェーデンカブ)、にんじん、カブや、煮こんだキャベツ、キノコ)も使用することができる。 karjalanpiirakka のサイズは通常7~20cmである。 karjalanpiirakka はたいてい楕円形だが、円形の場合もある。生地の皮は、表面がオープン状である。皮の端は詰め物に向かって重ね返され、ひだが寄っている。karjalanpiirakka は皮がカリカリである。皮は通常、全体の大きさの約1/3を占め、詰め物は約2/3である。”

より詳細を知りたい方は以下をご確認ください。

Karjalanpiirakka : 伝統的特産品保護(TSG)内容詳細 [フィンランド語]

承認された内容と異なる場合は ”karjalanpiirakka” の名で販売することはできず、例えば riisipiirakka お米のパイ、perunapiirakka じゃがいものパイ、など別の商品名をつけることになります。

もともとは、大手メーカーが材料費を抑えるために牛乳の代わりに粉ミルクを使用する等を防ぐこともTSG登録の目的のひとつだったようですが、乳製品のアレルギーをもつ人用にラクトフリーのミルクを使った老舗パン屋が、「乳糖を含まないミルクは牛乳ではなく、karjalanpiirakka のミルク粥に使われるミルクは牛乳でなければならない」という理由で違反と見なされ、商品名を変える羽目になった…という事例もあるようです。なんとご無体な。

ちなみにカレリアのカリッタの場合、詰め物はあくまでも材料の一種ですから、詰め物が何であろうと、何から作られていようと「カリッタ」を名乗ることが可能です。

さて、カレリアのカリッタも、フィンランドのカレリア・パイでも、作り方の中で守ってきた共通事項があります。

それは成型時の生地の薄さ
このような言葉が伝わっています:

”生地の皮は「7つの教会の塔が透けてみえるほど」薄くなくてはならない”

薄くする…のは分かりますが、抽象的すぎて分かりにくいですね。

以下はロシアのアルハンゲリスク州プリオルスキー地区にある村Malye Korely (Малые Корелы) の野外博物館 Museum "Small Karelians" (Музей "Малые Корелы")のイリーナおばあちゃんによるカリッタ作りの動画(ロシア語)ですが、どのくらい薄くする必要があるかを分かりやすく示してくれています。

ぜひ動画の 04:50 あたりを見て下さい(ロシア語分からなくても大丈夫です)。イリーナおばあちゃん、可愛い!

ちなみに、この動画では円形のカリッタを焼いています。

さて、長い小話もこの辺にして、カリッタとカレリア・パイ、それぞれのレシピを紹介します。

カレリアの「カリッタ」レシピ

【材料】

生地:
ライ麦粉…3カップ
ヴィ―リ、もしくはケフィア…1カップ
サワークリーム…1カップ
バター…大さじ1
塩…少々

詰め物:
大麦・オーツ麦の粥などお好みで…500g

Boltushka(焼く前に表面に塗る潤滑用の液)
卵…1個
サワークリーム…大さじ2
バター…大さじ2
塩…少々

【作り方】
1) 粉と水をボウルに入れる。ヴィ―リもしくはケフィア、サワークリーム、バターを加え、柔らかい生地にこねる。
2) 生地を長い棒状にこね、小さく切る。それぞれを丸くこねる(18–20個)。
3) それぞれをめん棒で薄く広げる。
4) 詰め物を中央にうすく塗り、側面の端をつまんでギャザーをつくるように閉じる。
5) Boltushkaの材料を混ぜ、表面に塗る。
6) 200℃に熱したオーブンで15-20分ほど焼く。
7) 焼き上がりにバターを薄く塗るとより美味しくなる。

以下は世界遺産の島として知られるキジ島の文化を伝えるキジ博物館(Музей «Кижи» )のカレリア料理マスタークラスとして公開されている動画。上で紹介したカリッタのレシピは、このアンナさんのものをベースにしています。

ロシアの「今」を伝えるサイト「ロシア・ビヨンド」でも、今年に入ってカリッタについての紹介記事が公開されました。

ダイエット・パイと言えるかはハテナ、紹介されているレシピの詰め物は筆者が好きなカッテージチーズという変わり種、生地の皮は分厚い、と気になる点は多々ありますが・・・。ちなみに名称の「калитки カリートキ」はカリッタのロシア語「калитка カリートカ」の複数形です。

フィンランドの「カレリア・パイ」レシピ

先述のとおり、カレリア・パイのレシピは日本語でも多く紹介されています。一例として記載しておきますが、写真や動画つきの親切なレシピをご所望の方は、検索して探してみて下さい。

【材料】

生地:
ライ麦粉…2カップ
小麦粉…1カップ
水… 200ml
塩…少々

詰め物:
お米のミルク粥…500g

焼く前に表面に塗るために
牛乳か水…2カップ
バター…大さじ2

【作り方】
1) 粉と水をボウルに入れ、水を加えて柔らかい生地にこねる。
2) 生地を長い棒状にこね、小さく切る。それぞれを丸くこねる(18–20個)。
3) それぞれをめん棒で薄く広げる。
4) 詰め物を中央にうすく塗り、側面の端をつまんでギャザーをつくるように閉じる。
5) ミルクとバターを混ぜ、表面に塗る。
6) 200℃に熱したオーブンで15-20分ほど焼く。
7) 焼き上がりにバターを薄く塗るとより美味しくなる。

カリッタ vs カレリア・パイ

レシピを見比べてみると分かる通り、基本的な作り方は全く一緒。材料の違いで 1) と 5) の表記が異なる程度です。

さてお味の違いはどうでしょうか。
これはぜひ、ご自分で試して頂きたいところです。
気軽に現地へ行くことができない今、ふだんはパン作りなどしない方も、チャレンジしてみてはいかがでしょう?カリッタとカレリア・パイの食べ比べ、なかなか面白いものですよ。

二つを同時に焼いた場合、焼き上がりは見た目の判別ができなくなります(苦笑)。カリッタの方が生地の色が濃いかな、程度。けれど、匂いで分かります。カリッタの方が乳製品が入っているのでやや発酵臭がするのです。

先にも書いたとおり、カリッタの方が乳製品を多く含んでいる分、しっとりした感じがあり、ちょっと贅沢気分を味わえます。
カレリア・パイの生地は粉と水だけなので、カリカリっとした仕上がり。健康志向の方にはこちらの方が良いかもしれませんね。

詰め物ですが、ぜひとも薦めたいのがオーツ麦の粥
シリアルコーナーで気軽に入手できます。シリアル粥の作り方もインターネットでたくさん紹介されていますね。基本的にはオーツ麦に同じ分量の牛乳を入れて、ゆっくりと煮ればOK。お塩で軽く味を調整してください。そのまま食べても美味しいですよ。むしろ、そのまま食べるならお米のミルク粥よりもおススメです。

最近ではこんなものが日本でも売られるようになりました。

その名も「フィンランド オーガニックオートミール」。私もこちらを愛用しています。

カリッタに用いる乳製品の中で、手に入りにくいのがヴィ―リもしくはケフィアですが、これまた最近では日本で菌を買うことができます。ケフィアでしたら大きなスーパーでもときどき売っています。

ヴィ―リ菌:

ケフィア菌:

ヴィ―リ好きな私は、しょっちゅうお世話になっています。それにしても、便利になったものですね。ありがたいものです。

「カリッタ vs カレリア・パイ」なんて見出しタイトルをつけてしまいましたが、どちらも美味しいですし、どちらも好きです。
またカレリア贔屓だからといって、後の時代に伝わり今の形で定着したフィンランドのカレリア・パイを否定するつもりもありません。
ただ願わくば、フィンランドだけの伝統料理ではないこと「カリッタ」という名称でカレリアで愛されていることも、知ってもらえたら嬉しいな、と思っています。

あ、ただ一つだけ言わせて下さい。
日本語で紹介する際、「カレリア(ン)・パイ」あるいは「カルヤランピーラッカ」という表記は良いです。でもね、「カレリアン・ピーラッカ」と書くのはやめてほしい!言語を混ぜるのは見た目も響きも落ち着かないし、単純にヘン!です。先にあげた中華まんを例にあげれば、「チャイニーズパオ」と呼んでいるようなものです。しかし、Wikipediaの日本語版が「カレリアンピーラッカ」なんですよね…これ直してもらえないものでしょうか。

余談はさておき。
最後に、上で紹介したキジ博物館のFacebookで紹介されていた写真を転載します。アンナさんが作るカレリア伝統料理、いつみても美味しそうで、見ているだけで幸せになります。はやくまた現地であの味を食べられますように。

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写真:Музей «Кижи» Facebookページより

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