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調性ごとにキャラクターはあるのか?

 YouTubeをなんとなく眺めていたら、興味深いタイトルが出てきたので見ていました。
 調ってありますよね。ハ長調とかヘ長調とか。短調だとハ短調とかイ短調とか。英語でいうとCマイナーとかFメジャーとか。スケールといいますけれども。

 結構長い動画なので、かいつまんで説明したいと思いますが。
 調性には、純正律と平均律がありまして。平均律っていうのは、音の幅が一定になっているもの。今の音楽は大体そういう調律をしている。DTMなんかで音楽が量産されているから、尚更そうだね。
 で、ヴェルクマイスターという調律の手法がある。調律にもいろんな手法があって、心地よい響きを作り出すための調律の手法ってのが実はある。ハ長調に向いた調律と、イ長調に向いた調律は実は違うというわけ。

ヴェルクマイスターによる和音の響きの違い

 平均律でいうと、3度の音程の差は400セント、5度の音程の差は700セントと決められていますが、ヴェルクマイスターでは、調性ごとにその音程の差が変わってきています。だからまあ、Cメジャーの和音と、Aメジャーの和音の響きは、少し異なっている、というわけ。逆に言えば、平均律で言えば、CでもAでも、音の高さが違うだけで、響き自体は一緒となる。
 この和音の響きなどから、調性ごとのキャラクターを見出した、ということになる。

 僕も高校生くらいのとき、この分野の理屈に凝っていて、色々本を読んだことがあります。というか、音楽ってよくわからなくない? ロックと一口に言っても、何を持ってロックの定義とするとかさ。バラードって言っても、何を持ってバラードと言っているのかとか。エレキギター使わないロックがあってもおかしくないし、テンポのはやいバラードだってあるんじゃないかとか。
 で、調ってなによ、と思ったことがありました。Fメジャーは柔らかい響きだとか言われてた本があったので、それがきっかけだったんですけど。その中で、動画でも紹介されていたマッテゾンの話も読んだことがありました。各調ごとにこの調は暗いだの明るいだの柔らかいだのコメントが書いてあるんだよね。結構長く。例えばハ長調でいうと「非常に粗野で生意気、でも快活」とか書かれている。このへんは、どの程度確からしいのかは、よくわかりませんね。人によって受け止め方が違うだろうし。
 でも、そういった人の感覚が溜まっていって、どんどんデータベース化というか、ライブラリ化していった結果が、マッテゾンのコメントのような形で集大成化していったと言える。作曲家が300人くらいいて、みんなにアンケートを取っていったらFがCより柔らかいイメージだった、みたいな話だと思うよ。で、いつしかそのライブラリが活用されるようになっていった。英雄的なかっこいい曲を作りたいから調はE♭にしよう、という感じに。

 現代の音楽、と言っても現代音楽でなくて、ポップスやジャズの分野などの話。ゲーム音楽とかもそう。基本的には平均律で使うじゃん。とすると、調の違いは、要するに音の高さが違うだけということになる。じゃあ、FもCも関係ないということなのかな? 理屈の上でいうと、そうだと思うよ。ピッチだけの問題でしょう。ボーカルの人の声域に合わせて移調したりするでしょ。その程度の扱いだと思う。
 それでも人は調にキャラクターを見出してしまう。今のポップスの作者が、FにしたいとかAにしたいとか言い出すこともある。シャープの多い調は明るくて、フラットの多い調は比較的明るさが抑えられている、という言を見たことがある。それに、そもそも長調が明るくて短調が暗い、というのも調にキャラクターを見出していることの証拠のひとつである。
 その背景って、その人がそれまでに聞いてきた音楽からうけた印象をまとめているのだと思う。Cの曲が明るい印象のものが多かったから、Cは明るいと認識している。例えばCマイナーですごくシャープでかっこいい曲を聞いてきたから、Cマイナーはそういうイメージなのだ、という。そういうことじゃないかなあ。だって音楽的に言えば同じだもんね。
 作曲をする人だと、Cで作ってた曲を、1音上げてDに移調したら印象が変わった! みたいなことがあると思うけど、それは、今までに聞いてきたCの曲とDの曲に差があるからじゃないかなあ。例えばロ短調について、チャイコフスキーの交響曲第6番をずっと小さい頃から聞いてきたから悲愴な感じがするという人もいれば、B'zのLOVE PHANTOMが好きな人には激しい調なんだって思ってる人もいると思う。個人的には、ロ短調は、短調っぽさがあまりない調だなと思っているが。

 その昔、調には独自の調律があった。それによって感じる調ごとの違いを、キャラクター性に置き換えてライブラリ化した人がいた。それをもとに曲が作られるようになって、確立されていった。
 一方で、利便性の観点から平均律になって、調ごとの特性の違いはなくなっていった。でも、それまでのライブラリから、特性を受け継ぐ人もいたし、特性が一緒なんだから音域だけの違いで曲の調性を決める人も増えていった。その結果、調のキャラクターは、確立されたものではなく、個人の判断にまた戻っていった……みたいな感じかなあ。歴史的な流れとしては。
 例えば僕で言えば、重くて暗い曲を作ろうっていうときにはCマイナーだったり、スピード感のある曲を作るときはDマイナーだったり、ゲームのバトルで使うような曲はEマイナーだったりした。こういうところ、つくる人によって個性は出ると思う。でも、その個性は本質的には存在しないものなのだ。

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榛名/haruna
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