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祝日の金曜日。

毎週木曜日に動画が配信される。22時配信なので翌日に見ている。シーズン1からみていて、今はシーズン2になった。原作のあらすじはすでに読み、内容はわかっている。けれど楽しみだ。

今日は祝日で息子は休み。息子がいる日に集中して動画を見るのは不可能だ。話しかけてくるから。パソコンはキッチンに置いてあり、用があってもなくても彼はキッチンに来る。でも見たい。私はブルートゥースイヤホンの電源を入れ、覚悟を決めた。息子が話しかけてくるたび止めればいいじゃないか。息子がキッチンに来るたび画面を隠せばいいじゃないか。ほんの24分間だ。私は再生した。

半分ぐらいは何事もなく進んだ。息子は話しかけたことに返事をしないと怒る。ああ、面倒だ。話しかけられるたび動画を止め返事をする。息子がキッチンに来るたびウィンドウズマーク+Dボタンで画面を下に隠す。
息子は受験生だ。毎日少しばかり勉強をしている。勉強前はうるさくからんでくる。始めるのが嫌なのだろう。いい迷惑だ。
あと数分で終わるというのに息子がキッチンに来た。画面はすぐに隠したが、なかなかいなくならない。なんの用だ。とっと用を済ましてくれ。すると勝手にパソコンに触れた。息子は今日の勉強スケジュールが書いてあるエクセルファイルを開こうとしたのだ。だが何か誤作動が起きいつもと違う画面の様子にあわてている。私もあわてている。いい加減にしてくれ。カーソルをタスクバーのアイコンにのせるだけで何をしていたのかバレバレなのに。見られただろうか、わからない。息子が見たかったエクセル画面にする。
「なんで人のパソコン勝手にさわるの?」「私、使っていたのに」
「ママだって俺のアイパッド勝手に触ってアプリを入れるじゃないか」
息子には言葉が通じない。ああ、いやだ。
腹が立って、腹が立って、腹が立って。動画は見終えたけど全然見た感じがしない。何も考えたくなくてひたすらヤフーのニュースを見ていた。

今日の午後、息子は夫と少し遠出をして、レーシングカートに乗りに行く。昼ご飯を食べ、夫が先に出発し、10分後には息子が出る予定だ。犬が後追いして泣かないよう、出発時間をずらし対策している。息子は時間を持て余していたようで、再びパソコンの前に来て「これ何?」とタスクバーにあるWのマークをクリックする。自分の書きかけのワードファイルが開く。いい加減にしてくれ。怒りが混みあがってきた。ファイルを閉じた。「さっさと行きなよ」と、息子を追い立てた。「行ってきます」という息子に声はかけなかった。
「大嫌い」
心の中は「嫌い」でいっぱいになった。
子供のころ色々物語を想像しながらイラストを描いていたら姉にのぞかれたのを思い出した。姉は私をあざわらった。息子も心の中で私をあざわらっているのだろうか。

こうなることなんてわかっていたのに、怒ってしまう自分。息子は姉とは違うのに。あきらかに違うのに。うずいてしまう傷。お気に入りの動画を見ていたんだ。文章を書く練習をしていたんだ。それでいいじゃないか。もうすぐ19時。文字をつむぎながら息子の帰りを待つ。



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