洞窟の影 #17
あと少しで終わる。曲がりにくい足は惰性だけで動いていた。弱々しい向かい風であっても押し流されそうなぐらい体は疲れ切っていた。トレーニングの一環で良くこのコースを部活で走らされる。学校のグランドを飛び出し近くの川に架かるある橋を中間地点に走ると距離は約八キロになる。序盤は部員全員で団子状態になり走るが僕は徐々に遅れを取り、最終的には毎回一人で走っていた。自分の息遣いはだんだん荒くなり、聞くだけで急かされている気がして気が滅入った。毎回、一人になると最初に飛ばしすぎた事を猛烈に後悔していた。他の部員とは積んでいるタンクの容量が明らかに違う事を認識した時は逃げ出したくなったが僕には体力も思考力も残されていなかった事を今でも鮮明に覚えている。動きたくても動けない、考えたくても考えられない。圧縮された僕のなすこと全てが周囲から遅れを取り、誰の視界にも入らず認められずに消えていくのが肌で分かった。そしてこのロードワークが終わった後も彼らは悠々と基礎練習を始める事だろう。サッカー部としては当然のことで、彼らが嬉々としてボールを蹴っているのを誰も不思議がらないはずだ。自分とはまるで違うその姿をしっかりと受け入れるのに大分苦労した。ただ月日が流れて、突き付けられたのはもうそこには劣等感はまるでなくなり、存在するのは解釈と理解だけだった。