洞窟の影 #13
一度満たされた環境で恋愛もどきをしてしまうともう元には戻れない。村上と一緒にいると楽しいと思うし、村上の事を好きだと思う。今の僕にはこれで充分だし、これが精一杯だ。ほとんど味のしなくなった弁当の具材を腹を満たし、空想の孤独感から逃れた。
家庭科室のにおいはどこからか復活していた。彼女は弁当を包み、時計に目をやった。「もう昼休み終わっちゃうね」
「そうだな」
「少しだけだけど加藤君が考えてること分かった気がする。教えてくれてありがとう。」
「また余計な事言っちゃったかな」
「ううん、余計なんかじゃないよ。加藤君のこと、またいろいろ聞かせてね」
村上はいつも通りに笑っていた。僕も苦手ながらもいつも通りの笑顔を返した。
村上と別れ、教室に戻ると夢野が僕の椅子に座っていた。若干目が合った気がしたが、彼は何をする訳でもなくただ座りボーっとしていた。近づいてもこちらに気が付かないのか全く反応を示さない事には少し驚いた。
「おい、なにやってんだ」
机の脚を蹴り、こちらの存在を強制的に認知させ反応を待った。夢野は慌てた様子で首を振った。それでなくても丸い目玉は飛び出すのではないかというほど驚きを表現していた。
「お前いつの間に戻ってたんだ?」
「今」
「今?お前みたいなでかいやつ見落とすことないと思うんだけど」
「いや、さっき目合っただろ?」
夢野はその特徴的な目元を縦横無尽に動かし直前の記憶を遡っているようだった。一つの結論に辿り着いたのか、今度はそのパーツを使ってこちらを下から覗き込んだ。妙な迫力があり一瞬たじろいでしまったのが自分でも分かった。