洞窟の影 #19
ここ数日、雨が降っていないこの街は秋とは思えない程乾ききっていた。また夏の痕跡を残した太陽から降り注ぐ親しみやすい陽光は人々を前向きさせた。人口がさほど多くないこの街でも、夏とも冬とも取れる曖昧な格好で多くの人が行き交った。その中でも若者が足を止めて、集まる場所が僕の通学路にはあった。正確にはつい最近できた。東京から上陸したこの店は、都心の若者の間で爆発的に流行っている飲み物をテイクアウトのみで販売している。ただ、店の周りには誰が置いたか分からない簡易なテーブルと椅子が数セットだけありその場所を手にした若者に特別感を与えていた。飲み物が入ったプラスチック容器も装飾されており、飲み物の色と相まってとても目を引く仕上がりになっている。店が建つまでこの場所は駐車場としても利用されていないただの空き地でしかなかったが、プレハブ小屋から出てくる魔法のドリンクに若者が魅了されていた。つい最近まで気にも留めていなかった場所に人が集まっている様子を見るとどこか不安になり、毎日横を通る度に自転車のペダルを強く漕いですぐにその場を離れようとした。今日も例に漏れずたくさんの若者が同じ方向を向いて飲み物を手にもって話していた。そんな日常を横目に反対車線を通り過ぎようとしたその時僕の名前を呼ぶ声が急にした。
「おいっ!加藤!おーい!」
明らかに魔法の小屋から声がする。車道を挟んでもなお聞こえるその声は周囲の人の注目を我が物にしていた。今日に限ってイヤホンをしていなかった過去の自分を責め立てたくなった。