page 64 Story of 永遠 9/3
美月「私と旬くんが会ったのは…」
彼女は長い話になるかも…と前置きしてからゆっくりと話し始めた。
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旬「ねぇ、美月は何でそんなに無理するの?」
美月「え゛?」
さっき私は、音楽教科の実習生として初めて高校の教壇に立った。
教育実習生はナメられるって決まってるから、最初が肝心だって、大学の先生に言われてはいた。
けど、本当にこんな風に“ナメられ”るっていう衝撃を目の当たりにして絶句した。
しかも呼び捨て・・・
休み時間に賑わう生徒達なんて目に入らないという様子で、その男子生徒は「俺、青井旬。覚えて」と言った。
大人びた容姿の彼は、制服のネクタイを外して、息苦しそうにシャツのボタンを開けている。
旬「全然学校の先生って、ガラじゃないじゃん」
美月「は?」
旬「社会的に認められたいって理由?」
美月「な…、」
旬「それとも親の勧め?」
美月「…」
こういうのは無視が一番いい。
聞こえなかった事にしようと決めた。
無視すればする程にしつこく話しかけて来る生徒にはどういう対応をした方がいいのか、そういえば大学では教わらなかった。
青井旬という生徒は、偶然を装って待ち伏せしては、よくわからない事ばかり話しかけて来た。
旬「ねー、美月は俺と結婚するよ」
3日目まで耐えて来たけど、妄想が拡大してるこの青井旬という生徒に、いよいよ嫌気がさして来た。
美月「あのねえ、結婚とか、そういうのセクハラの類に入るの!もういいかげんにして!」
しまった…
無視するって決めてたのに反応してしまった。
旬「だってそうなんだから仕方ないじゃん。俺たちは、坂の上のレンガ色の家に住む事になる。
ねぇ、運命論とか信じる?
俺は信じないけど、これは運命とかじゃなくてアカシックレコードからの情報だから確かだよ。
昔から予知夢とか見る方でさー、予知夢からの情報で、ハズした事無いから…美月と俺が結婚するのは確かだよ」
やってしまった
うっかり反応してしまったが為に、怒涛の返答が返って来てしまった。
美月「予知夢…?」
旬 「美月もやっぱ見るでしょ!予知夢!」
やばい。うっかり反応を返してしまった。
小さい頃から予知夢を見る事が頻繁に有った。
成長するに従って見ないようになったけど、予知夢が現実とリンクすればする程、見えない存在にコマを進められているような感覚になった。
人生ゲームのボードの上に私はコマとして存在していて、上から見てる本当の私がルーレットを回して楽しんでる。
コマである私は、その次進むマスを予め夢で教えられる…。
そんな事がこの世のルールなんだろうなって、小さい頃はそんな風に思うような、かなり変わっている子供だったと思う。
誰にも言った事が無かった事だけど、目の前のちょっと変なこの男子高校生だったら、この話を理解してくれるような気がして、少しずつ心を開いて行った。
それが私と旬くんの出会いのストーリー。
旬くんと話すようになって、空の写真を撮る事に夢中なんだと思った。
既にプロの写真家として活動してると知ったのは、結構後になってからだった。
空を見上げてる時間が長いからか、うっかりUFOのような飛行物体も何度も目撃していて、写真に撮れた!と思う瞬間が有っても、現像したら何も映っていない…なんて事は良くある事だったって、よく言ってたっけ。
教育実習期間が終わって数ヶ月が過ぎた頃、うっかり恋愛関係になってしまって、二人の事が噂になってしまった。
旬くんは未成年だったので、先に社会に出た私が社会的に暮らしにくい状況になった。
旬くんは、どうせ大学へ進学するつもりは無かったし、元々世間が良しとしてる常識は間違っていると反発していた。
「常識」っていうのは、誰かが決めたルールでしかないって、よくそんな風に言ってたっけ。
だからすぐに高校を辞めて写真家として生きて行く覚悟を決めた。
私を守りたいと思ってくれている行動なんだなと思っていた。
あまりにも結婚を急ぐのがとても不思議だったので、「どうしてそんなに急ぐの?」と、ある日聞いてみた事が有った。
あまりに生き急いでるように私には思えたから。
その時は色々な遠回しな返事が返って来たけど、ある日、旬君が事故で亡くなる夢を見たの。
その時、旬君は自分の命がそんなに長くないと分かっているんだと…そんな風に私の中で理解した。
だから結婚や、色々な事を急いでるんだなって。
その時初めて、予知夢なんか外れればいいのにと思った。
予知夢なんて見ない方がいいのにって。
“人生ゲーム”のボードをめちゃくちゃに壊したいと思った。