『量子と情報』2004/10と11に2冊リリース。"情報な量子"な良書はあるのだけど…
今回は量子と情報。
いずれも表紙をみれば、詳しい方には「あれね」でおなじみシリーズからの新刊です。
シリーズから既刊されている本は、
裳華房 量子力学選書シリーズで予定されている細谷曉夫『量子と情報』は、長らく待ち望まれており、ついに出版されます。
量子力学選書シリーズでは、谷村省吾『量子力学と幾何学』、小澤正直『測定理論と量子力学の基礎』が続刊予定。30年、50年と読みつがれる名著が生まれるのを心待ちにしています。
量子力学が物理学で受容されて約100年
すでに物理学分野以外でも、工学や情報、さらには哲学においても、量子の概念は当たり前のものとして使われています。
このような非物理学のコースでは、学ぶ際に量子力学ではなく、(力学ではない)量子論で十分です。
いまだ、情報学科でさえ、量子論を学ぶ際に量子力学を強いられているようです。情報学科の学生に、ルジャンドルの球面調和関数は不要です。もっと量子情報からの要点を教えるべきでしょう。
※ ルジャンドルの球面調和関数はこういうのです。
$$
Y_{\ell}^{m}(\theta, \phi) = \sqrt{\frac{(2\ell + 1)(\ell - |m|)!}{4\pi (\ell + |m|)!}} \cdot \frac{(-1)^m}{2^{\ell} \ell!} \frac{d^{\ell + m}}{d(\cos \theta)^{\ell + m}} \left( (\cos^2 \theta - 1)^{\ell} \right) \cdot e^{im\phi}
$$
この量子情報からのアプローチは、一般の人が量子論を学ぶ上でも適しています。
古典物理学を既知としない、
線形代数の延長として、
シュレディンガー方程式を解かない
としても、量子力学(量子論)を学べます。現代では、このように、量子論はよりアクセスしやすく、進化しています。
※ 物理・工学領域では「この量子力学」を「量子論」と呼ぶ。前期量子論≠量子論に注意。前期量子論は創成期の量子論であり、現代の量子論ほどに理論が精緻されていない。
この趣旨の『量子力学』として、
井田先生の本は玄人好みな構成。初めての人は谷村先生の方がいいです。しかし、いずれも細々した点で少し高度すぎる観はあります。もっとぬるい『量子論』でもいいのですが。
ほかに、数理論理学者である竹内外史先生の名著があります。
竹内外史『線形代数と量子力学』基礎数学選書24,裳華房,1981
いかんせん古いものの、無駄なく的確に「量子力学」が構成されています。非常にコンパクト。人によっては簡素すぎると感じるかもしれません。
竹内外史先生は数理論理学の大家であり、付録に量子論理(量子を基本とした世界の論理)が書かれています。
しかし、これらも「量子と情報」ではありません。
依然と「量子論」です。日本語の書籍では「量子と情報」がほぼありません。量子情報といえば、量子コンピュータの一つの領域と捉えられています。
また量子光学として、
があります。
洋書であれば
林正人"Quantum Information Theory: Mathematical Foundation (Graduate Texts in Physics)"Springer,2016
SGCライブラリ『量子情報理論入門』サイエンス社,2004 よりも最新かつ増補されている。
純粋な意味での量子情報に関する本は少ないのが現状です。まだその分野が成熟していないからかもしれません。
細谷先生が『量子と情報』を2024年に上梓されたのは、十分な内容が整う時期を待たれたからかもしれません。ここ数年、量子情報の分野は急速に発展しています。機が熟して、これら知見が蓄積され、『量子と情報』へと一層に充実させたかったのでしょう。
※ たとえば
"物理と情報"についての専門書は、ずいぶん前からあり、懐古的ながら、むしろ最先端。
西森秀稔
優れた「量子論」本はあるんだけど…
量子力学の専門書といえば、Sakuraiや猪木・川合といった有名なものが挙げられがちです。これら2冊は「量子力学」であるがゆえ、情報や測定についての記述が僅かです。
量子情報に関連した測定を含んでいる、優れた「量子論」の本はいくつかあります。つぎの2冊は量子論の理論体系が美しく述べられています。要点整理、学び直しに最適です。プロや玄人にひっそりと支持されている、隠れた名著です。
忘れてはならないのは、量子力学100年に再考すべき、
量子力学の数学的基礎の本ではない!量子測定理論の本です。
ノイマンの先見性については上述『岩波書店 科学2024/08号』田崎先生による「熱・統計力学に導かれ量子論に至り,量子論をもとに熱・統計力学を理解する」という驚くべき記事があります。もしノイマンが現代の2020年代に蘇った場合、どのような論文を書くだろうかという「if」が語られています。ノイマンは未来人なのか!?
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