2024 精選女性随筆集 白州正子

■精選女性随筆集 白州正子 小池真理子選 文春文庫 2024年

吉田茂との会話が出てきて、名家の娘の余裕というのか、家柄がよい人の鷹揚さを感じる。
そしてそこまでいかないと女の教養や自由は確立できないのかと思った。

文豪に弄ばれて自殺したむうちゃんの話が身につまされる。大岡昇平の『花影』のモデルだそうだ。
男に夢を見られ、魔性の女と言われても、誰一人むうちゃんの本質を見ていない。トロフィーワイフを男に期待された女性の不幸だなと思う。
境界例の人。真空のように人を惹きつけてしまう。ひとつの謎のように美しくはかない、悲しい人だが、中身はどうなのだろうと人に思わせる。
誰にでも肉体は手に入るのに、心が手に入らない。だから人の記憶に残るが、誰にも理解されずに自殺した。
そのきれいさ、はかなさ、自傷せずにはいられない狂気。自分に向けられる愛情に追い詰められてしまう。その悲しみを誰にも理解されず、悲しみの気配だけを人が察知する。だから関わる人の心に残ってしまう。

能の話。胸で見るという感覚がよくわかる。視界がとても狭いので胸で、あるいは空気で見る。空間を測るんだなと思う。
能が芸として枯れる感じ。若い頃は芸が芸術・技術として極まっていく。それはプラスの変化だけれど、歳を取るとそぎ落としてマイナスの美になるところがなるほどと思った。そぎ落とす過程がないとあの凄みは出ない。
若い演者でも空間を操っている感じはするが、まだその上があるんだなあと感心する。
能の人は芸のことしか考えない、その積み重ねでしかないというくだりを見て、そうではない自分に身につまされるものを感じた。

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