なくなって欲しくない街の喫茶店
もうしばらく行っていない、いや、はやり病で行けなくなっていた豊橋の喫茶店がある。
高校を卒業してから時々時間を過ごした昭和の喫茶店だ。
豊橋は喫茶店が多い街だ。
モーニングで各店が競争している。
初めてこの店に入った時に二日酔いでモーニングを頼んだ。
高校時代のなごりで十代で入る喫茶店には後ろめたさがあった。
他の店のモーニング定番である食パンのトースト、ゆで卵、サラダではなく、バケットのトーストとマスカットが二つぶだった。
なんだか大人の仲間入りをしたような気がした。
今もその店は変わらぬ大人の雰囲気、いつも誰かの写真が展示され、マスターは白い清潔そうな上衣を着て静かに接客する。
お客さんも長く通っているのだろうお年を召した方が多い。
静かな店なのだ。
この店にたどり着くまでに駅前の精文館で文庫本を求めコーヒーを飲みながらをそれを開く。
その頃は開高健が好きだった。
たしかコーヒーが180円、ハイライトが120円、文庫本は300円くらいで買えた。
魚市場で働き、月一度くらいの文化的な時間だった。
チェーン店に押されるのは致し方ないかもしれない。
チェーン店にはチェーン店のよさもある。
でも個性豊かな街の喫茶店には頑張ってもらいたいと思う。
一杯のコーヒーとその店の雰囲気が人の人生の一部になる。
そんな仕事ってのもなかなか無いと思う。
無くなって欲しくないもの、街の書店、そして街の喫茶店である。
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