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Mine&Industry #8
「MOTTAINAI……MOTTAINAI……でも私たちを助けるため……」
俺の腕の中でマユラがうわ言を呟く。気を失うほどのことなのか……? 兎も角その柔らかい感触を楽しむわけにも行かないのでアユラにパスを……と思ったら、
「さんびゃく……あれが一個がさんびゃっこ……」
と放心してよく分からないことを口走っていた。
「二人とも! しっかりしてくれ。そろそろ敵が来るぞ」
「……ハッ! 後になって高額の品代を請求される幻覚を……」
「大丈夫だねえさん。その時はシラを切って逃げよう」
「そんなことしないってば……アユラひどくない?」
「ハハ、ソンナコトシナイサ?」
そもそも何かを請求しないけどさ。
そうしているうちに、ゴブリンがやってきた。
■
自分たちは洞窟にいたはずなのになあ。
先頭をゆくゴブリン、ゾズ・イはそう不思議に思いながらも、ただただ歩き続ける。抗いがたい人間の気配……しかも特別に上等な匂いのする女の気配に誘われ、丘の向こうを目指して行く彼らの足取りは普段より随分軽い気がした。
なにせ二つだ! 後ろを歩く連中は知らない顔も随分多いが、二つあるなら、楽しめる!
「ギャ、ギャギャギャ!」
彼のその気持ちに呼応するように、弟たちも楽しげな声を上げる。肉の柔らかさや血の温かさを想像するだけで身体が熱くなり進む足に力が溢れる。
犯し、殺し、食らう。
彼らにとって極めて根源的なその欲求で、粗末な腰蓑の奥が突き上げられドロドロと溶岩のようになっていた。
しかし、気になるのはもう一つの気配だ。彼ら魔物は気配を色で視る。女の片方は鮮やかな赤紫。もう片方は明るい緑。しかし、重苦しい黒鋼色の”なにか”がその近くに拡がっているのだ。
それは方形と直線で構成され、拍動しておらず、直感的にだがとても生物のものとは思えない。しかし幸い、女らを完全には囲んでいない。
口を開けてくれているような形のそれは、つまりその隙間を行けば良いんじゃないか? あったまいーい!
そう、彼らは考えていた。
彼らは、丘の間に差し掛かった。
丘の間に、長鳴きの破裂音が響いた。
■
多数の砲音が連続して、一繋がりになって聞こえる。
9基の砲台がそれぞれ独自に感知するまま乱射されるが、一団となって押し寄せる大量のゴブリンには撃てば当たるという具合で、その全てが醜悪な人型に吸い込まれてゆく。
「すごい……」
姉妹がどちらともなくつぶやくその声は、驚きというより半ば畏怖に近い。着弾するたびに食い千切られるようにゴブリンが消失してゆく。
「しかし、都合はいいけど、なんで逃げないんだ?」
「ん? 何かおかしいか?」
俺の疑問にアユラは反対に怪訝そうな表情になる。
「ここまでとは思わなかったが圧倒的に攻撃すれば逃げる奴もいるかと思って、いざと言うときは後ろ側を封鎖しようと思ってたんだが」
「ゴブリンくらいの程度の低い魔物は、最後の一匹が獲物にありつけばいいと思ってるんですよ。それにしても……」
反対側から伺っていたマユラがそう付け加える。
「アキハルさんが、思ったよりも魔物の処理に手慣れていて良かったです」
砲声が止み、ふと静かになったときに言われた彼女の言葉は、やけに俺の耳に響いた。
【続く】
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