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ノベルマガジンロクジゲン

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むつぎはじめの書いた小説が読めるマガジン。 メインはSFというかファンタジー。
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むつぎ ノベル 総合目次

オリジナル断章 灰色の浜辺にて ニーナ・ザ・ミストガン 【1】 【2】 【3】 【4】 少女ファイル 満ちぬ街のムメイとクーニグンデ 【1】 【2】 【3】 黎明亭の核爆発。 【1】 まいこ・ザ・ジャンパー(完) 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【あとがき】 【完全版】 商人と海。あと亀とエルフとレールガン 【1】 【2】 【3】 黒の機械兵 【第一話】たびだち(完) 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】 【6】 【7】 【8】 Mine&In

プロメテウスの蜘蛛の糸

 ゴブリンたちを長柄の斧でぶった斬る。斬るのはこいつの頸ぐらいが限界だ。それ以上は反対側で撲殺することにしている。斬る、斬る、撲殺、斬る、斬る、撲殺。 「ユ、ユウちゃーん! 助けてくれー!」 「あっハイ只今ァー!!」  などと楽しいビートを刻んでいたら、いつの間にか今日の雇い主 荒木さんが極太の糸に絡め取られていた。手繰り寄せられつつある荒木さんの頭上の糸に向けて私は腰のナタを投擲。切断できた。荒木さんは落下してギャンと再び悲鳴を上げるが、四つん這いでなんとかこちらへ逃げてく

おねショタ108式の106『メトシェラ 愛しきあるじ』

前へ マガジンへ 次へ  夜明けとともに起き出した村の少年、マルクが水を汲みに外へ出ると、戸口に矢が刺さっていた。深々と刺さったそれは鏃が半ば貫通しており、何故打ち込まれたときに誰も気づかなかったのかと不思議に思った。 「とうさん。誰だか知らないけれど家の戸に矢を打ち込んだ奴がいるよ」  汲んだ水を桶から水瓶に移しながらその不可解な出来事を父に報告する。弓矢を持っているのは狩人のおにいさんか兵士のおじいさんか。しかしどちらもこんな悪ふざけをするような人物ではない。  そ

#同じテーマで小説を書こう  鏖滅騎士シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムの休日

「おはようございます。閣下、本日はどうされますか」 「ああ……まずは紅茶を一杯。ジャムを付けてくれ」 「承知致しました」  この屋敷唯一のメイドたるラクサが、絹織物のようなしなやかさで言われた通り茶を給仕する。  年若くして特例男爵……すなわち単騎で軍団に匹敵する人間兵器である彼の、可愛らしいとも言えるその嗜好を知っている事実は、彼女の密やかな楽しみでもあった。  熱い茶を冷ましながら少しずつ飲み、シュピナートヌィは目を覚ましてゆく。光の具合によっては緑にも視えるほど美しい

黒の機械兵 第一話 たびだち#8【終】

最初から 前回へ 「すげえ」 「なんだありゃ」 「網……だな」 大筒を操作してくれていた小父さん達が口々にそう呟く。 網は自ら収縮するように鉄狼を包み込み実体化すると、巨体を地に磔にした。重力が何倍にも増加させられたかの如く鉄狼は脚を屈し、尚も抗して全身から泣き叫ぶような装甲の擦過音を響かせる。 網と鉄狼。その力は拮抗し、巨躯を起こそうとしては伏せさせられることを繰り返した。 「なんで抜けられない?」 「推測ですが、網になったことで一箇所を引っ張っても全体に力が分散され

黒の機械兵 第一話 たびだち#7

最初から 前回へ 次弾が放たれ、拘束が重ねられる。鉄狼は再び伏して地に貼り付けられるが、ギチ、ギチと音を立てて諦めることなく抵抗の意思を見せる。 あんなものと戦っているのか。 覚醒して以来の、どこかのほほんとした雰囲気に飲まれ、知らず勘違いしていた。そんなに甘い世界ではないのだ。 「もうすぐだ。きっともうすぐ」 そう声を掛け合いながら、第三射の用意を小父さん達が進める。だが…… 「不味い。次の組のリケがいないぞ。撃てるか」 「今日は早く帰ってた。そのまま家に籠もってるんだ

黒の機械兵 第一話 たびだち#6

最初から 前回へ 一瞬の溜めの後に、鉄狼がこちらの建物へと突進する。果たしてあんな金属の塊の様な物体の激突に、石造りとはいえ耐えられるのだろうか? 「しまったな。さっきデモンストレーションしなければよかった」 アガツマ氏が半ばボヤくような口調でつぶやく。 「術具展開。神聖術式。其は護る光の障壁」 彼が両手で以て護持した錫杖を屋上にトンと打ち付けると、その瞬間教会が光の幕のような物で覆われた。 ゴガギャア! その障壁は一見して布のように見えるものの、確かな防御力があるよう

黒の機械兵 第一話 たびだち#5

最初から 前回へ 疑問は解消されぬまま、儀式は滞りなく行われた。 「はい、それでは皆の測定が終わりましたね。魔力無しのコはゼロ。イレギュラーはトーリくんだけ。何事もなく結構結構」 イレギュラーは何事かではないのか……? そんな俺の不満とも言えぬ不満を心中洩らしたとき、轟音が響き渡った。 《ギギョーーン!!》 「マリスコードだ!! 教会に逃げろ!!」 「柵をぶっ壊して入ったのか!? 対応が間に合わないぞ!」 野外から大声が響く。その向こうでは咆哮のような音と、巨大な何かが

黒の機械兵 第一話 たびだち#4

最初から 前回へ 「えーとな、体中をギザギザの虫が這い回るような、貫くような……そんな感じの感覚が暫く続くんだ、うん」 「え……あ、そんな記憶が、ある」 「聞いたこともあったか。そうか。ならよかっ……」 「いや、父さんから聞いた覚えはないけど」 「ぐ……ゴメンネ……」 いいよ。 何となくジョンの反応や父さんの説明からして、電気ショックとかそういう類のものなのかなと推測した。僕の前にいるもう一人の男の子が悲鳴を上げながら体をがくがく震わせ、それは確信へと変わる。 「うー

黒の機械兵 第一話 たびだち#3

最初から 前回へ 儀式と言うと何をするんだろう。と、教会への道すがら、父に聞いてみた。 「その日から大人の仲間入りという区切りを付けるのと、魔力の量と性質を測るのが目的だね。それぞれを記録して国に報告する決まりがあるそうだよ」 要は国民の把握が目的なのかな。と俺は推理した。詳しくは知らないが乳幼児死亡率は多いだろうから、生まれた時点で登録していては効率が悪いのかもしれない。 そして今日は定例の典礼の日だったようで、儀式に先駆けて司祭様が宗教的な難しい話をして、見様見真似で

黒の機械兵 第一話 たびだち#2

前回へ さて、この世界を子供なりに見回しただけでも幾つもの発見があった。 まず、文化度はそこそこ高いのではないだろうか。生まれ育ったこの村は街では決して無いが、理不尽な信心によって俺の様な者が迫害される未開の地ではない。いわゆるファンタジーヨーロッパ概念を地で行っている。 うろ覚えで料理や文化を持ち込んでもとても太刀打ちできるレベルではないので、そういうのは一瞬で諦めた。”母さん”の料理はチョーウマイ。そもそもおれの主食はコンビニおにぎりだったから料理なんてわからない。

第7師団山裾防衛隊隊員録 王女と戦闘あほ

払暁王国第13王女たる私、メレディスがこの場にいることが間違いだと思ったのはこの一週間で何度も有ったが、今感じているその感情の理由は大きく変容していた。 「姫様ァ! いや、少尉殿ォ! ちゃんと隠れていますかァ!」 カスタムキャノンの流れ弾が、私のうずくまる大木の幹を削り取っていく。しかしロクロウ准尉の胴間声のほうがよっぽど大きい。 人間なのか。彼は。私と同じ。 「j0lb/」「]lq@」「gk4wet」「wZqeq@」 小ぶりな大砲に針金細工の手足が絡みついた様な連邦の魔導

商人と海。あと亀とエルフとレールガン #3

【1】 【2】 【3】 大砂海。大陸中央の大部分を占め東西を分断するその地は極めて細かい砂で構成され、迂闊に踏み込めばまともに歩けないばかりか最悪”溺れ”死にかねない。 その大砂海を往くため整備された街道は、間違いなく交易の要だが、唯一ではない。 「い、行くぞ行くぞ!」 「早くしてくださいよ旦那さん」 「う、うるさい。俺は泳げないんだよ」 「大丈夫ですよ。キャノンタートルは本体自体も浮くように出来てるんですから」 その例外が、航路と呼ばれる砂海を突っ切るコースだ。 今回の目

黒の機械兵 第一話 たびだち#1

綺麗な夕日を見ていたら、俺は転生者だということに気付いた。 「僕……俺は、地球に生きていた……!」 「はあ? トーリ何いってんの?」 幼馴染のユハが胡乱げな瞳を向けてくる。俺はこの子に好意を寄せて”いた”。今はちょっとわからないが。 「いや、すまん、なんでもないよ」 「なんでもないっていうか、何その口調。偉そうじゃない?」 「は? にぎゃーーー!」 どうも俺は……この身体の主は……この少女に相当尻に敷かれていたようだ。 美事な海老反り固めを喰らいながら、俺はそんな事を