プロメテウスの蜘蛛の糸
ゴブリンたちを長柄の斧でぶった斬る。斬るのはこいつの頸ぐらいが限界だ。それ以上は反対側で撲殺することにしている。斬る、斬る、撲殺、斬る、斬る、撲殺。
「ユ、ユウちゃーん! 助けてくれー!」
「あっハイ只今ァー!!」
などと楽しいビートを刻んでいたら、いつの間にか今日の雇い主 荒木さんが極太の糸に絡め取られていた。手繰り寄せられつつある荒木さんの頭上の糸に向けて私は腰のナタを投擲。切断できた。荒木さんは落下してギャンと再び悲鳴を上げるが、四つん這いでなんとかこちらへ逃げてくる。
「ひー、ありがとうユウちゃん。女の子なのにすごいね」
「どういたしまして。敬意を持ってちゃん付はやめてくださいね!」
小さい頃から飴ちゃんをくれるから許すけど。
切れた糸を視線で辿り、ビル跡に巣を張った巨大な蜘蛛を発見。あれはただデカいだけか、それとも【魔法型】か……。
どちらの可能性もあるしどちらも強いから、蜘蛛は嫌いなんだよね。
「トラックどうしよう……二人で起こせるかな」
「いや……無理じゃないかなぁ」
横転した軽トラを前に荒木さんが四つん這いのままで悩む。荷物は惜しいけど、命の方が惜しい。そうやってる間に、再びゴブリンが姿を現す。
これだけ寄生しているということは……という推量に応える様に、岩で出来た杭のようなものが盛大にトラックを突き上げた。
「魔法型! ごめんなさい荒木さん。今回の荷物は諦めて下さい!」
荒木さんを蹴り飛ばしてトラックから遠ざけさせる。勢いあまってゴハァみたいな声を上げながらのたうち回るが、恨みはないから許してほしい。
「ほんとにゴメンなさいなんですけど、魔法型の場合はこのまま私逃げても良いことになってるんですよ。だから、一緒に逃げてくれると嬉しいです。見殺しは嫌なんで」
「魔法型って、そんなに強いのぉ……?」
痛ましくもボロボロな荒木さんが弱弱しくそう聞く。
「ええ、だって、人間って魔法は使えないじゃないですか」
【続く】