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ノベルマガジンロクジゲン

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むつぎはじめの書いた小説が読めるマガジン。 メインはSFというかファンタジー。
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2020年3月の記事一覧

俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた

 俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。  今日は2020年11月18日なので、確かそのはずだ。16度目の。 「今日は……雪が降るんだっけ、雹が降るんだっけ」 「えーと、明日が古宮さんの日だから、雪」  なんとなしに呟いた俺の独り言に妻の頼子《よりこ》が答える。出勤直前、持ち物の支度はいつも悩む。ループを超えてメモなどは残せないのでそれぞれの記憶が頼りだ。 「そういえば明日、古宮さん亡くなるんだよな……」 「うん、また半年お別れだね」 「次も巡るかな」

ツインブレード無宿 視えずのお唯

「シャーリーテンプルひとつ」 「シャーリー……何? お嬢ちゃん」 「チッ……じゃあジンジャエール頂戴。あと、私はガキじゃないぞ、ボウヤ」  空の疑似太陽ランプが照度を落とす、設定時刻は夕方。  バーテン見習いの青年、葉《よう》が酒場でグラスを磨いていると、何時の間に居たのかカウンター向こうからそんな言葉が投げかけられた。青年が目線を下げると、そこにはフードを目深に被り、猫背気味の……少女。面相は分からないが。  葉は(なんだこいつ)と思いながら瓶入りの炭酸飲料を取り出し、共

黒の機械兵 第一話 たびだち#8【終】

最初から 前回へ 「すげえ」 「なんだありゃ」 「網……だな」 大筒を操作してくれていた小父さん達が口々にそう呟く。 網は自ら収縮するように鉄狼を包み込み実体化すると、巨体を地に磔にした。重力が何倍にも増加させられたかの如く鉄狼は脚を屈し、尚も抗して全身から泣き叫ぶような装甲の擦過音を響かせる。 網と鉄狼。その力は拮抗し、巨躯を起こそうとしては伏せさせられることを繰り返した。 「なんで抜けられない?」 「推測ですが、網になったことで一箇所を引っ張っても全体に力が分散され

お買い求めは、山志田仏壇で 【まとめ読み版】

 ある日出勤したら、世界が変わっていることに気づいた。 「オイオイ無織田《むおだ》君、売出しの日にギリギリ出勤とは気合入ってるねキミィ」 「……店長、うち今日で閉店じゃなかったですっけ」 「はっはっは、80周年記念でここより良い霊地にでも移転オープンする気かね? ヤル気有るのか無いのかハッキリしないねキミ」  山志田仏壇、だった筈だが、まだ眠気の抜けない俺の目の前には、裏口からも無駄に見える【パワーアイテムYAMASHIDA】の四面ネオン看板が輝いていた。あ、いや、下の隅に小

お買い求めは、山志田仏壇で 【後2】【終】

【前編】【中編】【後1】【後2】 思い返せば最初からそうだ。爆音に驚いてへたりこみはしたが、それだけだった。 「「「なん……じゃと……?」」」 その様子に気付いたらしい怨霊が後退ろうとする。が、いつの間にやら再び立ち込めていた山志田香の煙にあえなく阻まれる。 「結界効果は、ライトが一番強い」 「へえ」と俺。 「そうなんだ」と店長。店長!? 私売ってるだけだし。などと俺に視線で答える店長は置いておいて、エダマキさんが金剛杖で怨霊を威嚇しつつ話し続ける。 「なんだかしらんが、