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ノベルマガジンロクジゲン

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むつぎはじめの書いた小説が読めるマガジン。 メインはSFというかファンタジー。
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2019年5月の記事一覧

暗洞に声よ響いて #6

最初から 前回へ 「……ふはっ」 ゲーム内から戻ると、一瞬息を忘れて大きく息を吸う。いつもの癖だ。 『現時点でキャラクター作成に使用したポイント分は稼げましたが、目標額はこの約10倍ですから、ペースが不安ですね、レイコ様』 「配信に向けて練習もしたいから、休みの明日か、ギリギリ明後日くらいまでが期限だね。半日でこれだと、もっと効率のいいところじゃないと……」 狩場、というらしい。私もあっちも実際には命を懸けてないとはいえ、なんだか申し訳なくなる呼び方だ。 『それでしたら強

断章 灰色の浜辺にて

ざざん、と波の音で、僕は目覚めた。 「名前は*******、歳は**歳。次元断層の衝突で消失。か」 え? という余裕もなく、私は顔を上げて、遅れて自分がベンチのようなものに座っていることに気付いた。眼の前には、駅員のような、軍服のような……詳しくないが……カチっとした身なりの少女が。 「起きましたか、おはようございます。おはようしか私は言わないのだけれど」 周りを見回す。不思議なことに、海の家のような場所に私はいた。外は灰色の空だが、不思議に暗さは感じない。直前の記憶

暗洞に声よ響いて #5

最初から 前回へ 少し跳ねるくらいのつもりでジャンプしたはずが、天井で頭を殴打した私は暫くうずくまっていた。いや、だから、痛くはないのだが、反射行動だ。痛い気がするのだ。 『高いVR適正の賜物ですね』 賜りたくないよ、こんなの。 気を取り直して、上げたスキルを確認する。 STR レベル2 DEX レベル3 INT レベル1 これは基本ステータス。さっきの体験から鑑みるに、DEX(俊敏性)レベル3ですでに超人的だが、これ以上どうなってしまうのか。 剣術 レベル3 解剖

暗洞に声よ響いて #4

最初から 前回へ 私は以前作るだけ作っておいた冒険者用アバターで、受付のカウンターに相対していた。 『本日はどちらへ向かわれますか?』 「試練の塔の……1階をお願いします」 いつも配信で使っている”れいん”のアバターとは身長以外全く違うこのボディは、細部の色替えをした位でほぼデフォルト。オリジナルなところは皆無だ。 ただし、声はハスキーな……落ち着いたといえば聞こえはいいが……ゲーム外の私自身の……声そのものである。 この世界はポイントが全て……らしい。 つまりポイント

暗洞に声よ響いて #3

最初から 前回へ 「帯域使用料……って何……?」 『ご説明しますか?』 「あ、いや、大丈夫……不要です……」 分かってるけど分かりたくないときのアレだから、大丈夫だ。デジタルアシスタントが映るPCディスプレイの前で、私は頭を抱えていた。 告知動画投稿から一夜。あるいは、自宅用Pvサーバーが来てから一夜。 ……やってしまった。テンション上がった勢いで告知動画を投稿したが、大事なところで説明書を読んでいなかった。 プライベートバース……VR上の個人向け共有空間を設立する準備を

暗洞に声よ響いて #2

前回へ 眠気を抑えてなんとか講義をこなした私は、その終了と共に立ち上がり、ポーチから端末を取り出し画面を点ける。そこに出ているのは、数件の通知。 クーポン、プレイしてるゲームのスタミナ回復、そして、私の投稿した動画の視聴数が一定以上を超えたというお知らせ。 「っし」 私はつい、小さくつぶやいた。横のひとにちらっと見られる。慌てて手で口をつぐむが、その下では口角が上がっていることを自覚していた。 ほんの20文字にも満たないその文字列は、何度見てもいいものだ。 私は一つ深呼吸