インスタント沼
かれこれ4年くらい履いているスニーカーがある。デザインと履き心地が良くてお気に入りなのだ。けれど4年も履いていれば年季も入ってきて汚れが目立ち出してくる。お気に入りなので出来るだけ長く、寿命(スニーカーには“バグる”というスニーカーの底が割れたりする現象があるらしいのでそれを寿命と勝手に思ってる)まで履いてやりたいと思い決心した。洗濯しようと!
バケツに水溜めてさ、洗濯用石鹸を溶かして汚れてるところを使い捨て歯ブラシでせっせっと磨いて2日くらいベランダで乾かしたんですわ!
もう乾いて良い感じかなぁと思って覗いてみると、、ん?何か匂うぞ。。。隣の人か?!隣の人の洗濯機の音めちゃくちゃうるさいんだよ!ガタガタ!音だけじゃなくて匂いまでも迷惑かける気か!!でも下から匂いがするなー。ま、、ま、、まさか。。
恐る恐る靴を嗅ぐ。くっさっっっっっ!!なんだこれ!めちゃくちゃ臭い!カビ臭いのと雨上がりの臭い草原みたいな匂いがする!!ショック過ぎる。あんなにお気に入りだったのにもう履けないの?!いや履けるは履けるが履いたら周りの人達に何かあいつ臭くね?!てな具合に白い目で見られてしまう。
あーー最悪だ。洗わなければよかった。なんだか最近ツイてない気がする。今月の携帯料金が何故か高かったり、いきなり詐欺の電話かかってくるし、レジの列に並んでないと思ったおばさんの前を横切ってレジの列に並んだら「並んでるんですけど!!!」って凄い剣幕で怒られたり、最初に書いていた奴が何故か消えてしまっていて記憶を辿りながら今2回この文章を書いているのだ。
何か俺だけツイてなくて周りはすげぇ良い事ばっかりなんじゃないのか。ウフフキャキャキャ的な事をして楽しんでいるのではないか。何か俺ってつまらないなぁ。
やばい!これはダメだ!負の心スパイラルに陥ってしまう。よし!映画を見よう!!んなわけで見た映画が「インスタント沼」だ。
「インスタント沼」は麻生久美子さん演じる沈丁花ハナメは担当していた雑誌が廃刊に、好きな男性は後輩に盗られ、おまけに母は池に落ちて昏睡状態になるなど一気に不幸に見舞われる。おまけに実父らしき人物が判明するが胡散臭い骨董品屋を営んでいた。その実父(以下電球のおっちゃん)と真面目なのにパンクに憧れるガスとの交流を描いたクスッと笑えるコメディ映画だ。
この映画を見て思ったことは辛くて苦しい日々でも幸せや楽しい事は案外近くに転がっているという事。電球のおっちゃん(以下おっちゃん)に影響を受けハナメも骨董品屋を始めるのだが客も全く入らず全然上手くいかないのだ。それに落ち込んだハナメはおっちゃんが営む骨董品屋に行きテンションが上がらずやる気が起きない事を相談するとおっちゃんは「そういう時は蛇口をひねればいい」と言うのだ。そうするとおっちゃんは洗面台の排水溝を閉めて蛇口を全開にひねった後に「よし!ジュース買いに行くぞ!!」と言うのだ。ハナメが「溢れたらどうすんの?!」と言うと「それがスリルだ!」と言いハナメを連れ急いで近くの自販機までジュースを買いに行く。間一髪洗面台から水は溢れる一歩手前で蛇口を閉めることができ2人は安堵して笑い合った。
普段何気なく使っている蛇口。なんなら何とも思った事の無い蛇口にも生活を面白くする事が出来るし、もしかしたら僕が気づいていないだけで生活を面白くする物は身近に沢山あるのではないかと初めて気付かされた。
この作品では見えてるものを見るだけではなくて見なくていいものを見るようにならなきゃダメという事が1つのテーマとして掲げられている。蛇口なんて生活の中では見なくていいものではあるが(こう言うと蛇口を作ってる方に申し訳ない気がする)、実はそういった見落とした部分に幸せへの転機になるものが潜んでいるかもしれないのだ。
この映画を見るまでは幸福なんて物は自然のうちにやってくるような半ば運試し的なものと思っていたけれど、自分からでも探しに行けるのだ。ツイていない日や辛い日の中にも絶対に小さな幸せや面白いことってのはあるはずなのだ。四つ葉のクローバー見つけたとかアイスで当たり棒が当たったとか電車で隣に座ってきた女の子がとても可愛かったとか、その可愛かった女の子と同じ駅で降りたとか。。。そんな小さな幸せや楽しさを噛みしめる事が生きて行く上で本当に大事な事なんだなと思ったのだ。
なんて事を考えながらカビ臭い匂いが充満した玄関の横のトイレ前でこの記事を書いている。ハタから見れば何ともくだらない事なのかもしれないがこれはこれで僕にとっては心地いい状態なのでよしとしよう。良い気持ちで1日が終えることが出来そうだ。
明日はどんな楽しい事があるのだろうか?なんだかワクワクする。