外資系レイオフに対する英語でのコミュニケーションにLLM(Copilot)を活用した体験談
はじめに
外資系企業に勤めているとその日は突然訪れます。最近は日本企業でもよく耳にする話になってきました。「レイオフ」です。
Wikipediaのレイオフの項には、「企業の業績悪化などを理由とする解雇のことである」と書かれています。日本企業での「レイオフ」はこのWikipediaの定義に当てはまるといえるでしょう。
その一方で、外資系企業(特にIT企業)における昨今のレイオフは、この定義の「など」の方に重点が置かれています。従来型のビジネスから、AIありきのビジネスへとマーケットが移っていくのを見越して、企業のゴールや、ゴールを実現するための体制を組み直す、そのために人を入れ替えているといえます(もちろんコロナ時の大量採用人員の整理という側面はあるにせよ)。
私は CircleCI という外資系IT企業で働いていましがた、このようなレイオフの対象になりました。私の上司は日本で働く日本人ではなかったので、レイオフの通知も、その後の対応も、全て英語でしなければなりませんでした。
この記事では、私が英語でのコミュニケーションのLLM(Copilot)をどう使ったのか、お話しします。
レイオフ通知
CircleCIは過去にレイオフを実施したことがあり、その際に日本で働く従業員も対象になったことがありました。2022年12月7日のレイオフの際に、CEOから全社員に送信されたメールはブログにも公開されていました(アーカイブ)。Twitterではレイオフは残念だが、退職パッケージは充分だという声が多くありました。
私はレイオフの通知を受けた時、シンガポールにいました。2月1日にシンガポールで開催された "DSSG x CircleCI: Advanced LLM and CI/CD Practices" というコミュニティーイベントに登壇するために、前日に日本を出発したのです。深夜にホテルに着いたとき、会社からのメールが届いていました。メールは英語で書かれていて、私もレイオフの対象になったこと、退職パッケージの詳細は後日送られること、相互合意のもとで円満に退職することが望ましいことなどが書かれていました。
登壇の準備をするはずが、眠れない夜を過ごしました。
レイオフ通知メールを読み取る
私は外資系企業で20年以上働いていますが、英語のメールにはいつも苦労しています。特に、日付や期間、金額などの数字がたくさん入っているメールは、細かくチェックしないと間違えやすいです。
私は MacBook Pro を使っていますが、こんなこともあろうかと、Webブラウザには Microsoft Edge をインストールし、頼れる副操縦士 Copilot も手懐けておいたのでした。
Copilot に次のようなプロンプトで
とお願いするだけで、日本語で要約してくれます。隠している部分が多いですが、私の名前の漢字が違っている他は、理解の助けになるような結果が返ってきています。
パッケージを読み取り、対案を英語でまとめる
シンガポールでのイベントで話した後、日本に戻ってきた翌週、退職合意書がメールに PDF で添付されてきました。
前回のメールの場合と同じように、まず Copilot に退職合意書の内容を日本語で要約してもらいました。そして、合意書の各項目を Copilot と一緒に確認しながら、正しく理解していきました。
全ての内容を把握した後、私は特別退職金の額だけを交渉することにしました(これは Copilot の助言ではなく、私の決断です)。
まずは(合意書のコンテクストが残っている状態で)日本語で Copilot に相談します。
次に、アドバイスに従って、交渉の要点を考えます(Copilot は私の仕事の様子を見ているわけではないので、ここは自分で決めなければなりません)。そして、それをフォーマルな英語メールにしてもらいます。
私は Copilot に英語のメールを作成してもらっていますが、そのすごさは「合意に導く英語」でメールを作ってくれることです。自分で読んでも、意味はわかりますが、自分でこの英文を書くのは正直無理だと思います。
エンジニア同士のやりとりなら、ロジックやコードが共有できれば、少し雑な英語でも通じますし、仕事に支障はないと思います。しかし、今回のように合意書の内容を提案する場合は、相手はエンジニアではなく、人事や法務の担当者です。だから「読んで意味がわかる」よりも、もっと高いレベルの英文が必要です。つまり「あなたの言っているここがよくわからない」という問題を起こさないように、「読んで対案に合意できる」か「ポイントを絞ってさらに対案が出せる」レベルの英文で伝えるべきです。そうすれば、結局は早く解決できると思います。
もちろん、細かい数字や単数形・複数形などの英語の解釈は人間(私)がしっかりチェックしなければなりません。また、ある程度の分量の英文メールなら、自分で読み返しても「あれ?」と思うところが1、2カ所はあるかもしれません。その原因がプロンプトの日本語が曖昧だからということであれば、プロンプトを修正して、別のバージョンを作ってもらうことも必要です。
頼れる人がいるなら頼る
メールで返事をもらえれば(Copilot を使って、じっくり考えて対応できるから)助かるのですが、人事との面談が決まりました。
私はメールで交渉の提案を送りましたが、会社からは会議に日本人を1人同席させるという回答が来ました(正直言って、ニュアンスの問題というのは言い訳で、自分のペースで会議を進めたかったのです)。
それならば、会議に臨むしかありません!と思ったのですが、不安もありました。Copilot がいるので、細かい理解は間違っていないと思いますが、もしかしたら合意書における交渉のポイントがずれているのではないか(本当は、合意書に書かれていない別のポイントを指摘して交渉すべきではないか)という可能性を完全に否定できませんでした。
そこで、Copilot ではなく人間に相談することにしました。以前、外資系のデータベース会社でプリセールスマネージャーとして働いていた時、私はデータベース以外の商品やサービスも扱っていました。そのため、契約ごとに、(標準の契約書ではカバーできない)契約中のテクニカルな部分(英語)を法務部の方にチェックしてもらっていました。
その会社を辞めてからも、その方とは仲良くしていたので、合意書の内容と、私の交渉した内容を教えてアドバイスをもらいました。具体的な内容は自分の判断に任せましたが、抜け漏れや方向性に関する問題はないと会議前に言ってくれたので、私は安心しました。
人事とのミーティング
人事の方と話し合う時間になりました。その方とは初めて話すので、念のため、macOS の Accessibility 機能を活用して、Live Speech で話したことをテキストに変換しておきました。
ミーティングでは、こちらから(Copilotの助けを得て)わかりやすく、明確にリクエストを伝えたこともあり、人事の方も、他の部署との連携がしやすかったと感謝してくれました。結果として、納得できる金額になりました。
あとは、競合会社への転職制限については、ミーティングで削除してほしいと強く言いました。CI/CDサービスを提供する会社が競合だとすると、CI/CDツールの会社だけでなく、AWS, Google Cloud, Microsoft Azureなども(一部では)競合になってしまいます。
人事の方は、私の考えは理解できるが、もう少し検討すると言ってくれました。私は、メールで再度お願いすることを忘れませんでした。
サイン
メールで交渉した後、人事から連絡がありませんでしたが、新しい合意書がメールで届きました。私が望んだ通り、競合会社への転職制限はなくなっていました。私はこの合意書に合意するとメールで返事をしました。
そして、入社時と同じように、電子署名でサインして退職が決まりました。
その後
退職するまでに残り数日あったので、仕事の引き継ぎをしながら、LinkedInに転職活動中( #OPENTOWORK )と書いたり、久しぶりに一参加者としてデブサミに行ってみたりしました。
それから、Python と LangChain の勉強もし直しました。これまではあまり深く理解していなかったので。
私はこれから新しい仕事を探そうと思っています。20年前に自然言語処理エンジン(今のSiriの元になったもの)の開発やプリセールス、コンサルティングの仕事をしてきました。だから、お客様の昔からの問題や、時代や環境の変化による新しい問題を理解しています。技術の名前が、AI なのか、ML なのか、LLM なのかはあまり気にしませんが、「お客様の行動を変える」ことができるようにお手伝いしたいと思います。ロール名は Developer Advocate なのか、Technical Evangelist なのか、Innovation Principal なのかはわかりませんが。
投げ銭
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