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妊娠・出産のために知っておきたいプレコンセプションケアと必要な“性”の教育

今、注目の「プレコンセプションケア」とは?

「プレコンセプションケア(PPC)」ーーまだ耳なじみがない言葉かもしれませんが、2021年以降はこのPPCに注目が集まり、実践することが当たり前になって行きそうです。

コンセプション(conception)が“受胎”を意味することから、妊娠・出産前におこなうヘルスケアのことをプレコンセプションケアと呼ぶのですが、その対象は、妊娠を考えている女性やカップルに限りません。
 持病があったり以前の妊娠で異常があった女性やカップルにとっても大切ですし、現在は妊娠を考えていない前思春期から性成熟期の人にも男女を問わず関心を持ってもらいたい健康テーマなのです。

とはいえ、なぜ今プレコンセプションケアがそれほど注目を集めているのでしょう? 理由は以下の2つです。

【注目の理由その1】
最新の「少子化社会対策大綱」(内閣府2020年5月)において、政府が「ライフデザイン(ライフプランニング)について考えたことがある人」の割合を数値目標を設けて向上させると発表したから。

この決定には、「生物学的に女性の妊娠する力が下がる年齢がいつか知っている」という質問に対して、「ライフプランを考えたことがある」人よりも「ライフプランを考えたことがない」人の方が20ポイント(%)以上も多く「わからない」と答えたという結果が影響しています(内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」2019年9月)。

進行する深刻な少子化を食い止めるためには、自身やパートナーの生殖能力が何歳頃から低下するのかを、より多くの人が知っている必要があります。ライフプランについて考える習慣をみんなが持つようになると、

そもそも子どもを持つのか持たないのか?
持つとしたら何歳頃までに?何人?
それまでの期間をどんな風に過ごすのか?

といった妊娠・出産にまつわる事柄を具体的に考える人も増えるはずです。

こうした生殖に関する人生設計をすること、それをどう達成するのか考えることを「リプロダクティブライフプラン(RLP)」と呼ぶのですが、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)でも、PCCをはじめる際には、まずRLPを立てることを推奨しています。

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安心安全な妊娠・出産の知識は健康長寿にもつながる

【注目の理由その2】
同様に、2020年12月に策定される「第5次男女共同参画基本計画」でも、学童期・思春期の若年層に対して「医学的・科学的な知識を基に、将来のライフデザインを描き、多様な希望を実現することができるよう、包括的な教育、啓発をおこなう取り組み」への推進が掲げられたから。

この基本計画の中では、以下のようなことを教育、啓発するよう具体的に記されてます。

*女性の学童・思春期における心身の変化や健康教育に関する事項
(例)月経関連症状及びその対応、子宮内膜症・子宮頸がん等の早期発見と治療による健康の保持、ワクチンによる病気の予防に関する事項
*妊娠・出産に適した年齢、ライフデザインと計画的な妊娠、葉酸の摂取、男女の不妊、性感染症の予防など、プレコンセプションケア(妊娠の計画の有無に関わらず、早い段階から妊娠・出産の知識を持ち、自分の身体への健康意識を高めること)に関する事項
* 睡眠、栄養、運動、低体重(やせ過ぎ)・肥満、喫煙など、女性の生涯を見通した健康な身体づくりに関する事項

出てきました、プレコンセプションケア。
「妊娠計画の有無にかかわらず」健康意識を高めることという記載、そしてライフデザイン(ライフプランニング)の重要性が自身の健康や妊娠と紐付いているとする考え方は、mezameのコンセプトにも通じていますね。

また、年齢に伴って妊孕性(にんようせい=妊娠する力)が低下することや、糖尿病、高血圧などのリスクが上昇すること、健康管理のしかたなどをあらかじめ知っていれば、妊娠前の女性やカップルが身体的、心理的、社会的にも健康状態を良好に整えることが可能になり、結果として、より安全・安心な妊娠・出産ができるようになります。
さらに、女性のみならず男性や将来の子どもたちの長期的な健康増進にもプラスとなり、健康寿命を伸ばすことにもつながるでしょう。

【関連記事】

10歳だって早くはないPCCを考える年齢

2019年10月、国立成育医療研究センターのプレコンセプションケアセンターと厚労省科研「保健・医療・教育機関・産業等における女性の健康支援のための研究」研究班との共催で「プレコンセプションケアを考える会」が開催されました。
パネルディスカッションでは日本のPCCについて8人の各分野の専門家が議論し、私も「国際基準の科学的健康教育を考える/助産師の立場から」という演題で発表を行いました。

会では令和元年を「日本のPCC元年」と位置づけ、日本のPCCの定義を「前思春期(10〜12歳)から生殖可能な年齢にあるすべての人々の身体的、心理的および社会的な健康の保持および増進」と定義することを提案して終了しました。

さて、ここで考えてほしいのは、上記の“前思春期”にあたる小中学生に対して、どのようなPCCをおこなうかということです。この世代は、先ほど登場した「第5次男女共同参画基本計画」の“学童期・思春期の若年層”にも該当します。
PCCを適切におこなうためには、妊娠・出産にまつわる教育は不可欠。それは、女性の健康知識も含めた包括的な性教育を子どもたちにもおこなっていく必要があるということです。

国際基準からはるか遅れている日本の性教育

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、世界各国のセクシュアリティ教育にかかわる専門家の研究と実践を踏まえた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(以下ガイダンス)を作成しています。

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このガイダンスは、2009年に初版が出版され、以降、包括的性教育のプログラムや教材の開発、実践を行うための各国の手引書になっている、まさに性教育の世界スタンダードです。

正確な科学知識に基づいていること、幼少期から継続的に段階を踏みながら進むこと、包括的であること、カリキュラムに基づいていること、基本的人権やジェンダー平等に基づいていることなどの特徴があり、性行動そのものだけではなく、人間関係(家族、友情、結婚等)、価値観、文化、人権など、多様性を前提とした多岐にわたる内容となっています。

その詳しい紹介はまた次の機会に譲りますが、読者のみなさんにもぜひ知ってほしい優れたガイダンスですので、もしチャンスがあればぜひ目を通してみてください。英語版ですがユネスコの当該ページを貼っておきます。


さて、このガイダンスでは、対象を次の4つの年齢区分に分けて学習内容と学習目標をそれぞれに設定しています。

・レベル1:5~8歳
・レベル2:9~12歳
・レベル3:12~15歳
・レベル4:15~18歳

私は、このガイダンスと日本の文部科学省による学習指導要領の比較を、“女性の健康”に焦点を当てておこなってみたのですが、結果的に日本の包括的性教育が国際基準より大きく遅れていることが明らかになりました。

例えば“妊娠”に関して、ガイダンスでは5-8歳(レベル1)の段階で、子どもが生まれる“受精”などの過程を知ります。9-12歳(レベル2)ではすでに、“意図しない妊娠”“避妊方法について”取り上げられていました。
しかし、文科省の学習指導要領では双方ともに高校で扱う内容と規定されています。

また、学習指導要領では“がん”についての教育は記載されているものの、女性特有の“乳がん”“子宮頸がん”については焦点が当てられていません。
ガイダンスでは、ヒトパピローマウイルス感染、ワクチンに関しては、9-12歳(レベル2)で教育すべきといわれている一方で、日本の学習指導要領には記載さえありませんでした

月経に関する教育も世界とは大きな開きがありました。
ガイダンスでは月経中に女性が快適に過ごすためのサポートが記載されていましたが、学習指導要領では、小学校で月経について紹介されるのみで、それ以降どのタイミングでも月経時の過ごし方に関する記述はありません。

さらには婦人科等へのアクセスについても、ガイダンスでは詳細に記載されている一方、学習指導要領では中学校、高校のタイミングで一般的な医療機関の利用に関する記述がされているのみで、婦人科等の利用についての特徴的な記載はありませんでした。

こうやって比べてみると、国際基準でおこなわれている包括的性教育と日本とのはっきりした差を認識していただけるのではないかと思います。

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教育機関での性教育環境がこれだけ整っていないということは、今現在、社会人として働いている女性でも、妊娠・出産をはじめとした健康知識を正しく持っている人が少ないということ。社会人女性が健康知識を得る機会を持つことは、極めて重要だと考えています。

今後も、この公式noteを通じてはたらく女性に向けた啓発活動をおこなっていきます。ぜひ一緒に学んでいきましょう!

■ 文/西岡 笑子(にしおか・えみこ)
防衛医科大学校 医学教育部 看護学科母性看護学講座教授。順天堂大学医学部非常勤講師。順天堂大学医学部助教、神戸大学保健学研究科准教授を経て現職。母性看護学・助産学とウィメンズヘルスが専門分野。2児の母でもある。mezame女性研修の監修を行う。

(構成/阿部志穂)


“mezame”は、
はたらく女性の健康とキャリアを
サポートするプログラムです

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女性特有の体調の周期的な変化、年齢やライフステージごとに変わって行く役割、体調、かかりやすい病気…。ウィメンズヘルスをふまえて“はたらく”を考えれば、女性従業員のパフォーマンスは今以上に向上し、女性自身もなりたい自分、叶えたい人生に近づくことができます。

さんぎょうい株式会社が提供する“mezame”は、専任の産業保健師と国家資格キャリアコンサルタントがタッグを組み、健康知識とキャリアプランニングの基礎研修、個別のキャリア面談によるモチベーションアップ、ライフステージ別・職級別の健康とキャリアを考えるセミナー等をおこなう支援プログラムです。

労働損失が5000億円にも迫ると算出されている月経随伴症状。職場全体がヘルスリテラシーを高め、女性の健康に配慮することで労働生産性もあがり、相互理解が促進されることで離職率の低い職場風土を醸成できます。

女性活躍推進施策、健康経営施策の第一歩としても最適です。経営者のみなさん、人事・HRご担当のみなさん、ぜひ一度、ご相談ください!


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