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【2024/12/15開催】【さまざまな「つたえる」「つくりかた」シリーズ:デザインについて考えてみよう!】
「めとてラボ」は、視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。
コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。
はじめに
今回初めてnoteを執筆します、めとてラボメンバーの仲菜摘です。
めとてラボでは広報を担当し、SNSの運用も担っています。
今回は、2024年12月15日に開催した、デザインをテーマに視覚言語の可能性を探る勉強会についてレポートします。ゲストに、これまで番組ロゴやクラフトビールのラベルなどさまざまなデザインを手掛ける岩田直樹さんをお迎えし、参加者と共に、デザインの「つくりかた」や「つたえかた」について学びを深めました。
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ゲスト:岩田 直樹(いわた なおき)
和歌山県立和歌山ろう学校卒業後、筑波技術大学総合デザイン学科へ入学。
2018年に企業のデザイナーとして勤務する傍ら、フリーランス事務所「ダイナモデザイン」デザイナーとして活動中。
2021年「デジタルの日」のロゴデザイン担当。
「2021年デジタルの日」ロゴに込めた"想い" | デザインとは? デジタルとは?
はじまって早々、彼は和歌山出身ということもあり、名産である“みかん”の白筋を避けたむき方を伝授。和やかな雰囲気で勉強会がスタートしました。
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デザインに込められた想い
岩田さんの丁寧な解説を通して、これまでに生み出してきた一つひとつの作品に込められた想いを深く知ることができました。特に印象的だったのは、埼玉県にある「かわせみ交通株式会社」のロゴデザインです。
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日高市の市の鳥であるカワセミをモチーフに、老人や子ども、障がいあるなしに関係なく全ての人が利用しやすいように、カワセミの羽ばたいているかのような羽の部分に描かれた線で、「さまざまな人々の出会い」を表現しています。また、道路や交差点にも見立てたデザインでもあるとおっしゃっていました。
このデザインを見るたびに人々の繋がりを感じ、心が温まります。
他に、岩田さんはNHKのEテレ番組「ろうなん ろうを生きる難聴を生きる」の新コーナー「池間のミルシル2025TOKYOデフリンピック」タイトルロゴも手がけられました。
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このロゴは、岩田さん自身がデフリンピックの象徴になるものを自由に考えた結果、生まれたものです。
ろう者といえば「手話」、そして「手」を連想しますが、岩田さんにとっては「手話」=「手」はよく見るモチーフのため、より独創的なデザインを目指しました。
そして、2025年デフリンピックの開催地である東京に目を向けました。
スカイツリーや東京タワーのような東京を象徴する建造物や、東京から江戸を連想し、江戸時代に使われた書道用具である筆に思いを馳せ、筆の「かすれ」が「手」のように見えることに気づきました。
そして、この「かすれ」をモチーフに文字を掛け合わせ印象的なロゴデザインを作り上げました。さらに、丸を表した手を「TOKYO」の「O(オー)」に組み込むことで、東京と手を結びつけ、デフリンピックのテーマを視覚的に表現しています。
2021年「デジタルの日」
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岩田さんは、2021年の「デジタルの日」ロゴデザインを提案する際、メールでのやり取りを重ねながら、さまざまな工夫を凝らしました。
スマートフォン(縦)やPC(横)での見え方、さらには、デザインロゴが決まった後の展開も含め、提案していました。
例えば、このデザイン案を元にポスターを作成した場合、駅構内でどのように目に留まるのか、どのように情報が入るのかを検証。さらにクライアントがよりイメージを膨らませるために、ポスターだけではなく、お皿やTシャツまで多角的な提案を行なったのです。
2021年のデジタルの日は10月10日と11日で、1と0の二進数で構成されています。
一見、真面目で厳格といったお固い印象ですが、デジタル庁のコンセプトである「誰ひとり取り残さない、人に優しいデジタル化」という考えを表現するために、デザインを意図的に10度傾けているそうです。
そうすることで、違和感を感じながらも、記憶に残るデザインになっています。
このわずかな傾きは、完璧である必要はないというメッセージ性でもあります。
デザインのブランドガイドライン
デザインに一貫性のあるブランドイメージを築くためには、デザインのガイドラインが非常に重要かつ不可欠になります。
岩田さんは、具体的な例として、色の使用範囲や余白の取り方、ブランドカラーやフォントのサイズ、グラデーションの薄い色と濃い色の割合などを挙げ、デザインの細部にわたるルールを定めることの重要性を強調していました。
デザインは単なる完成品ではなく、完成した後も、そのブランドの世界観を維持する上で、継続的な管理が必要だと学びました。
デザインとアートについて
岩田さんはデザインとアートの違いについて、参加者に問いかけました。
デザインは、問題解決や課題解決を目的としたもので、なぜその形なのか、なぜその色なのかというような理由が求められます。
例えば、病院で処方された薬は、その成分や効果、副作用などの説明を受けて納得した上で服用するように、デザインにも根拠や説明が必要なのです。一方で、アートは作者の自己表現や問題提起を目的としたものです。
必ずしも、明確な目的や機能は持たず作者の感性や世界観も含まれています。
椅子を例にあげると、デザインされた椅子は私たちが座って休んだり、作業したりと座るという機能を持ち、人々の生活を便利にします。
アートとしての椅子は、ただ単に座るための道具ではなく、形や色、素材、置かれている空間などを通して作者が表現したい世界観や感情を表しているといいます。
例えば、何もない場所を指して、作者が「ここに椅子がある」と言ってしまえば、そこに椅子があると私たちは頭の中で浮かべ、それが作品となるようなものです。このアート作品としての椅子は、実際に座って休むことができません。
デザインが実用性を重視するのに対し、アートは作者の表現を重視しているという違いがあるのです。
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「共存」は可能か
デザインとアートは共存できるのか。
一見すると相反する二つの概念ですが、岩田さんの話を通して、両者が深く結びついているのだと学びました。この問いに正解はありませんが、岩田さん個人の見解では共存することが可能だそうです。例えば、私たちは日常的にある商品を見て「かっこいい」や「かわいい」といった感覚で選び、購入することがあります。
この時に、魅力に感じたその感情を言葉で説明できない場合は、アート的な要素が強いと言えるでしょう。逆に「デザインがかっこいいから買った」というような明確な理由を言語化できたら、デザイン的な要素に結びつく、このようにデザインとアートの両方の要素は共存していると岩田さんは話していました。
他にも、スマートフォンには生活をより便利にするための機能性というデザインの側面がありながらも、洗練された形や色などの見た目の要素は一種のアートとしても捉えることができます。社会の変化とともに人々の価値観や美的感覚も変化していきます。かつては受け入れられなかったものが時間が経つにつれて広く受け入れられるようになることもあります。
デザインとアートは一見異なる性質のように思えますが、私たちの生活の中で実は深く結びついており、相互に影響を与え合いながら複雑に絡み合い、共存しているのだと感じました。
見る力
「見る力」とは、単に目で見たものを認識するだけでなく、なぜこの色なのか?なぜこの形なのか?と疑問を持ち、意図を深く読み解く能力を指します。
日々、さまざまなデザインに触れていますが、そのデザインが生まれた背景や込められた意味を意識する機会は少ないかもしれません。岩田さんは見る力を養うことの重要性を強調しています。自分で、あるデザインに対して意図を理解し、整理して言語化する力こそ、デザインを理解する鍵だと。
例えば、「◯」のようなシンプルな形ひとつとっても、正解、電球、みかん、和と勉強会の参加者が連想するものもさまざまで、人によって異なるイメージが浮かびます。また、アメリカでは正解を「✔︎」で表すこともありますが、日本で「✔︎」はむしろ不正解や注意を表すことの方が多いです。このように同じ形でも人々の背景や文化によって意味や解釈は大きく変わります。
「見る力」を養うためには日頃から身の回りのデザインに意識を向けることが大切です。なぜこのデザインが選ばれたのか、どのような効果を狙っているのかというように深く考えることでデザインの奥深さを知り、より広く、より豊かな視点を得られるでしょう。
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色が持つ力
「黄色」という言葉を聞いた時、それぞれが頭の中で描いている黄色は微妙に異なると思います。ここには過去の経験や文化、個人の好みなどさまざまな要素が影響しているため、「黄色=この色が正解」というような普遍的な答えはないと岩田さんはいいます。あれもこれも同じ黄色という分類に入りますが、同じトーンの黄色ではないので、その細かな言語化も必要になります。岩田さんはデザイナーとして、単に「黄色」というだけでなく、クライアントの思う黄色に対して、自分の意図した「黄色」を正確に伝え、クライアントの意向に少しずつ近づきながら色のデザインも作っています。
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また、色の持つ心理的な効果も話してくださいました。赤色は危険や危ないイメージを連想し、緑色は安全や信号の色で「進んでOK」という印象があります。青色は悲しいイメージと思われがちですが、ほっとする、知的というようなイメージもあります。このように色は私たちの感情に直接働きかける役割があります。
しかし、ある色に対して「多数派がどのようなイメージを持っているのか」を知ることは必要です。実際に周囲の人々に「赤色のイメージ」を尋ね、どのようなイメージを持っているのかを調査したこともあるそうです。そして、岩田さんは自分の持つ赤色のイメージと、周囲の人とのイメージの間にどのようなズレや違いがあるのかを比較し、デザインに活かしています。ただし、岩田さんは多数派だからとはいえ意見が常に正しいとは考えていません。
一般的なイメージとは異なる色使いを採用したことで話題になりブランドイメージを確立した例もあるため、時には少数派の意見を取り入れることで、印象的なデザインを生み出すことができることもあります。
メタファーの力
「赤が好き」、「黄色の方が好き」というように人それぞれに色の好みはあります。しかし、デザイナーは単に「この色がかっこいいから」という主観的な理由だけではなく、そのカラー選択に込められた意味を、相手に納得させるための言葉で伝えるということが必要になります。
岩田さんは、デザインの色を選ぶ場合、色の歴史や文化的背景といった知識を活かしています。そして、メタファーと呼ばれる手法を用いて、その色の持つ意味をより深く、わかりやすく説明することを心がけているそうです。
例えば、「2021年デジタルの日」のロゴデザインを青色にした理由として、デジタルや世界中に繋がるインターネット、この「繋がる」を他に換えると、海や空もどこにいても繋がっていることに気づき、「無限にどこまでも広がり繋がっている」という概念を視覚的に表現するために、青色をベースにカラーに採用した流れがあります。パソコン=賢いというようなイメージも連想したそうですが、そこには主観が入っていると感じ、空や海が青色だという周知の事実をデザインに結びつけたと岩田さんは話していました。
また、他にも「雲のように柔らかいパン」という表現は、パンのふわふわとした食感や見た目を、まるで雲のように柔らかく軽やかであることをイメージとして伝えることができます。このメタファーによって、パンのおいしさをより鮮やかに表現し、人々の食欲をそそります。このようにメタファーは、あるデザインや商品の魅力を何倍にも引き出し、人々の心に響くような表現を可能にします。
デザイナーはこの手法を用いることで、自分のデザインに込めた思いをより深く理解してもらう効果的な手段ともいえます。
「観察と疑問の繰り返し」
岩田さんは、街を歩く際、以下の2枚の写真のように、ふと目に留まった風景からインスピレーションを得て、さまざまな疑問を浮かべます。
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ある店のロゴカラーを見て、「この店のイメージカラーにこの色を選択した理由は?」と考えたり、美味しそうな料理を見て「一体何がこの料理を美味しそうに見せているのだろう?」と分析したりします。
このように日頃から「観察と疑問を繰り返す」習慣は知識を増やすだけではなく、創造性を育む機会としても重要だと岩田さんは話していました。
疑問を観察し言語化するこの思考法は、グラフィックデザインだけではなく、企画立案にも応用できます。例えば、参加したイベントが面白かったと感じた時、単に面白かったと終わらせるのではなく、「なぜ面白かったのか」という理由を具体的に挙げてみましょう。その分析をもとに、自分が新たな企画を立案する時に、実体験した面白さを応用し、組み合わせていき、新たな企画を立案することもできます。「なぜ?」というシンプルな問いを頭の片隅に置いて、日々の生活を送ることで、私たちの創造性はより無限に広がっていくと思います。
デザインを通して見る世界
岩田さんのこれまでのお話を通じて、デザインは単なる視覚的な表現にとどまらず、人々の心に響き、社会へ影響を与える力強いツールであることを改めて実感しました。デザインを学ぶことは、美しいものを作りだすことだけではなく、世の中をより理解し、人々と共感するための「繋がり」を築くことであるとも気づきました。特に、デザインの想いや意図を深く読み解くことの重要性やメタファーの力による表現の広がりなどと多くの学びを得ることができました。
今回の機会を活かして、「めとてラボ」の魅力を最大限に引き出し、多くの方々に伝えられるよう、より効果的な発信方法を模索したいと考えています。日々の生活の中で、あらゆるデザインに「観察と疑問」を繰り返し、デザインの力を借りて魅力を伝えていきたいと思います。
皆さんは、街中を歩いている時や身の回りのデザインに、目を向けることはありますか?例えば、カフェのロゴや商品パッケージデザインなど、「なぜこの色を採用したのだろう?」「なぜこの形なのだろう」と一度立ち止まって、「なぜ?なぜ?」と疑問を追求してみてください。
岩田さんのように、一つひとつのデザインに込められた意味を探求することで、きっと新たな発見があるでしょう。
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